日本医薬品卸業連合会会長 松谷 高顕
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本年は、団塊世代の定年退職が始まり、まさに、いわゆる2007年問題の該当年であり、昨年末に公表された新人口推計の出生率も大幅に下方修正された。わが国の超少子高齢化の本格的な進行を前にして、日本社会の活力ある成長を願いつつ新たな年を迎えた。
昨年は、薬価基準が前回を上回るマイナス改定となり、また、診療報酬も過去最大の引き下げが行われた。このため、市場環境は大変厳しく、各社皆様方のご苦労を推察する。
そのような状況の中で、永年の懸案である未妥結・仮納入問題について、中医協が薬価調査の信頼性にかかわる問題として改善の必要性を指摘し、厚労省が行政措置を講じたことは画期的なことであった。
これを前提にして、現在、流通当事者間で真摯な価格交渉が展開されている。早期妥結についての共通認識は高まっており、積年の課題である流通慣行の改善に大きな一歩が踏み出されたが、今後、われわれの一層の努力が必要である。
また、昨年の中医協では、薬価改定の頻度の議論に衆目が集まった。景気回復に伴う財政事情の好転から今年の薬価改定は見送られたが、今後とも議論の俎上に載る可能性がある。医療用医薬品流通問題の全体像や薬価基準制度のあり方を十分に踏まえた上で、結論を得るべき問題と考える。
厚労省は、現在、新医薬品産業ビジョンの策定に着手しているが、医療用医薬品の流通問題の根本的な解決こそが医薬品産業の発展と医療保険制度の安定のための礎であることを深く認識した上で、明確なビジョンが示されることを切望している。
一方、昨秋、公取委によって医療用医薬品について調査報告書が公表された。医療機関がメーカーから直接購入することを推奨する提言が盛られたことで、業界に波紋を広げた。流改懇の場で、私の質問に対し、公取委の責任者は、取引数量などの取引条件を全てメーカーが決めており、卸は単に取り次ぎとして機能している場合を想定している旨の回答をされた。しかし、これは実務上あり得ないケースである。また、当該報告書では、共同購入が価格引き下げに効果的であるとの指摘があった。大きな誤解であると考える。現在行われている共同購入は、窓口を一本化しただけの共同交渉であり、コストの削減効果は限定的だ。加えて、医療用医薬品は処方せんによって需要が生じるので、複数の医療機関がまとまって購入しても処方量は増えず、需要の拡大効果はない。従って、メーカーにアローアンス等の値引き財源を要求する根拠にはならない。このように報告書の内容には誤認と誤解があることから、到底受け入れ難いものだった。今後とも医療用医薬品流通の特性や現状について、関係方面に積極的に理解を求めていく必要性を痛感する次第である。
近年の鳥インフルエンザの発生・流行に伴い、昨年は、新型インフルエンザ治療薬の公的備蓄が行政課題となった。皆様のご理解の下に、危機管理における卸の社会的使命として、卸企業は利益を求めずに協力することとし、行政から深く感謝された。
また、医薬品の販売業に関する薬事法の改正が37年ぶりにあり、1979年の改正で一般販売業の一類型に位置づけられた卸売一般販売業が、「店舗販売業」及び「配置販売業」と並んで「卸売販売業」とされたことにより、私どもの業態が法規制上独立して明示された。過去の法改正が、先達の大変な努力によってなされたことを偲び、今回の法制化をひとしお意義深く感じている。
改正薬事法は、大衆薬について三つに分類し、第1分類の薬剤師が扱う医薬品のほかは、新設の登録販売者も扱えることとなった。これを機に低迷する大衆薬市場が活性化することを期待すると同時に、スイッチOTC薬等の推進、情報インフラの整備、合理的な取引関係の構築などに努める必要があると考える。
昨年9月のIFPW(国際医薬品卸連盟)サンフランシスコ総会では、世界の医薬品市場の10%を占めると言われるカウンターフィット(偽造薬)問題に議論が集中した。席上、日本代表として、「日本では優れたサプライチェーンが存在しており、医療用医薬品において日本では偽造薬は存在しない」と発言した。カウンターフィットの問題が日本で起きていないことを誇りに思う。その後、WHO(世界保健機構)のIMPACT(偽造薬対策国際会議)に卸連の代表が参加したが、欧米では既にグローバルなカウンターフィット対策として医薬品流通のIT化が検討されている。日本も流通コードの標準化に後れを取らないような対応が迫られている。
今年は、超少子高齢化が加速する中で、強まる医療費抑制など困難な課題が待ち受けていると思う。試練の風を受けて、「厳しさがあってこそ磨かれる」との気概をもって亥年の諸問題に取り組まなければならない。