東京大学病院整形外科・脊椎外科の中村耕三教授らの研究グループは、独自開発したリコンビナント線維芽細胞増殖因子‐2(rhFGF‐2)製剤について臨床試験をした結果、骨折部の癒合期間が、プラセボ群に比べ、約4週間短縮したことを明らかにした。これまで、骨折治癒を促進する薬剤の臨床応用は世界的にもなく、中村氏らは現在、実用化に向けた研究開発を進めている。
下肢の脛骨骨折など、骨折治癒を促進する薬剤は社会的な要請が高いにもかかわらず、国内外を通じて臨床応用されているものはない。下肢の新鮮骨折などでは、ギプスなどの固定や手術をしても骨癒合が見られない場合、変形が残こることがあり、歩行が難しくなるなどQOLを大きく阻害する。そのため、多くの探索が行われてきた。
中村氏らは、そうした骨折治癒を促進する因子として、骨形成促進作用のあるFGFに着目し、研究を進めてきた。FGFは全身のほとんどの組織で作られ、様々な生理作用を示す蛋白質で、現在までに23種類が見つかっている。中でもFGF‐2 は、骨組織に最も多く存在し、骨折の治癒過程で骨を作る骨芽細胞前駆細胞の増殖に深く関与している。
そこで中村氏らは、科研製薬とrhFGF‐2含有ゼラチン製剤を開発し、臨床応用に向けた研究を進めてきた。これまでの基礎検討では、ラット、ウサギ、イヌ、サルの骨折や骨欠損モデルで、骨癒合を強力に促進することが明らになっている。
それらの成果を踏まえて、rhFGF‐2製剤の脛骨骨折に対する効果について、ランダム化プラセボ対照二重盲検比較試験を行った。試験は、国内48施設の整形外科を受診した、脛骨骨幹部の新鮮骨折患者71例を対象に、▽プラセボ群▽低用量群(0・8mg rhFGF‐2含有ゼラチンゲル製剤)▽高用量群(2・4mg rhFGF‐2含有ゼラチンゲル製剤)‐‐の3群に割付し、固定手術直後の骨折部に各製剤を注射投与した。
その結果、投与後24週間にわたって、2週間ごとにレントゲンで骨癒合を評価したところ、骨癒合までの時間は、プラセボ群に比べ、低用量群で28日、高用量群で27日短縮さた。低用量群と高用量群の間に有意差はく、24週後でも癒合していない症例は、プラセボ群4例、低用量群1例、高用量群0例だった。
研究グループでは、「われわれが基礎研究から動物実験そして臨床治験へと発展させてきた一連の研究は、以前から国際的に高い評価を受けている。今後は、今回の臨床試験の成果に基づき、国内のみならず世界的な市場も視野に入れ、実用化に向けた研究開発を進める」としている。