ヒューマンサイエンス振興財団が、概ね5年ごとに実施している医療ニーズ調査で、1994年度から2010年度までの16年間に、医師の治療満足度や薬剤貢献度は全体的に上昇し、特に慢性C型肝炎、関節リウマチ、慢性B型肝炎、骨粗鬆症で、治療満足度の向上が大きいことが浮き彫りになった。その一方、アルツハマーや血管性の認知症、膵癌は治療満足度が低く、新薬開発への期待が高いことも分かった。
4回目となる10年度調査は、昨年9~12月に実施。60疾患の医療ニーズなどについて、160人の医師が答えた。なお、前回調査で満足度や薬剤貢献度が極めて高かった高血圧症、狭心症、消化性潰瘍、結核は調査対象から除外した。
9割以上の医師が、薬剤が治療に貢献していると評価した疾患は、糖尿病、喘息、高尿酸血症・痛風、片頭痛、てんかん、脂質異常症、心不全、白血病、アレルギー性鼻炎、不整脈、関節リウマチの11疾患。
一方、薬剤が貢献していると考える医師が3割を下回ったのは、睡眠時無呼吸症候群、血管性認知症、膵癌、アルツハイマー、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)、加齢黄斑変性、線維筋痛症、糖尿病性網膜症で、いずれも治療満足度も低かった。
患者数予測も調べた。今後10年間で患者が増えるとしたのは、アルツハイマーが最も高く83・6%で、以下、糖尿病83・2%、うつ病80・0%、脂質異常症71・6%、HIV・エイズ70・8%と続いた。患者数が減るとした割合が高かったのは慢性B型肝炎57・7%、慢性C型肝炎55・4%、胃癌38・7%、子宮頸癌32・4%、肝癌30・3%など。
20年に医療上特に重要となる疾患には、約半数の医師がアルツハイマー、糖尿病を挙げ、次いでHIV・エイズ、うつ病、肺癌、血管性認知症、CKD(慢性腎臓病)と続いている。糖尿病を除くと、どれも治療満足度が比較的低い上に、患者数が増加すると見込まれる。
新たな薬剤による治療が必要な疾患では、アルツハイマー、膵癌、肺癌、糖尿病、胃癌、大腸癌、HIV・エイズ、肝癌などが上位を占める。
これから重要になる医療技術については、再生医療・細胞療法の68・7%が最も多く、次に約40%で治療用ワクチン、バイオマーカー、画像診断、ゲノム情報、予防医療が並ぶ。再生医療・細胞療法で最も期待される疾患領域は循環器系で、血管再建による血行改善を望む意見が多かった。
また、行政やメーカーへの要望を聞いた。行政に対しては、新薬や新医療機器の承認の迅速化、ラグ解消に関する意見が多く、「国内未承認薬の早期承認、ジェネリック薬より、新薬開発のモチベーションが高まる体制作り、治験・臨床研究実施体制の整備・充実」などが望まれていた。
メーカーに対しては、希少疾患の治療薬を中心とする新薬開発への期待が大きかったほか、薬剤に関する知識の普及に向け、早く正確な情報提供や、古くても効果がある薬剤の販売継続を求める意見も出ている。