来年4月には、6年制課程を修了した初の薬剤師が誕生するが、質の低下が懸念される薬学教育の改善方策や、6年制学部教育に基盤を置く大学院のあり方など、クリアすべき課題は多い。
そうした中、文部科学省の「薬学系人材養成のあり方に関する検討会」が、約1年ぶりに議論を再開させている。今後の大学(学部)教育のあり方について議論した5月10日の会合では、文科省が公表した定員充足率や5年次進級率の結果をめぐり、関係者から厳しい意見が相次いだ。
全薬学部・薬科大学の2008年から10年までの過去3年間の定員充足率は、国立大学で105・8%、103・5%、103・1%、公立大学で111・2%、130・3%、111・8%と100%を超えていたのに対し、私立大学では97・4%、95・9%、95・3%と定員を割り込んでいた。
また、06年度に入学した学生1万1950人のうち、5年次へ進級できたのは9408人(進級率78・7%)で、2542人が留年した。私大の中には、進級率6割未満が7校もあった。
これは、本来、受け入れるべきではなかった学生を受け入れ続けてしまった、ということを如実に示した結果ではないだろうか。
ある国立大学の医学部では、センター試験の結果が少し低かった生徒を1人入学させたところ、その情報が行き渡って、次の年の受験生がその生徒の合格ラインに合わせてくるようになり、それを戻すのに5年くらいかかったという。
薬学では、6年制の移行という大きな変革の中で、かなり大きな問題が発生しているとの認識が必要で、これを、情報社会の中で起こった一つの事象として片づけるわけにはいかない。授業についていけずに留年してしまった2542人の教育をどのように行っていくのか、という問題への手当は急務だ。
会合では、委員から「各大学による自主的な定員削減」といった、思い切った策を講じる必要性が指摘されたが、多くの関係者は、大学の定員削減の必要性は認識しつつも、果たしてどれくらい削減したらいいのか、はっきりしたことは分からないのが実情ではないだろうか。
薬剤師は、薬局や病院以外にも、薬剤師の資格そのものを使わない領域にも職域を持っているため、薬剤師の資格を持った学生を、社会がどれだけ受け入れてくれるのかという出口の部分に対する不安もあるだろう。
そのためには、需給関係を視野に入れた提言が必要だ。厚生労働省の薬剤師需給の将来動向に関する検討会を再開させるなどして、文科省の検討会とワンセットで議論を進めることが求められる。