「薬と糖尿病を考える会」(代表世話人:厚田幸一郎・北里大学北里研究所病院薬剤部長)は、来年1月に一般社団法人「日本くすりと糖尿病学会」を発足させる。糖尿病患者の加速度的な増加や、インクレチン製剤の登場などで糖尿病薬物治療が複雑化する中、臨床の場で糖尿病療養指導に従事する薬剤師と、治療薬の研究開発を行う薬学研究者が連携し、糖尿病薬物療法に貢献することが目的。1月1日付で法人登記を行い、1月中に手続きを済ませ、学会としての新たなスタートを切る。
また、来年9月22、23の両日、東京・荏原の星薬科大学で第1回学術集会を予定している。
糖尿病を専門領域とする薬剤師には、薬物療法だけでなく、食事や運動、生活習慣に至るまでの幅広い療養指導の実践・向上に努めることが求められている。昨年3月に発足した「薬と糖尿病を考える会」では、糖尿病領域における病院・薬局薬剤師、基礎薬学研究者が連携を密にし、糖尿病療養指導の質向上に向けた活動を行ってきたが、糖尿病治療や研究を担う薬剤師のさらなる資質向上を目指し、学会を発足させることとなった。
学会では、薬剤師としていかに糖尿病治療に貢献していくかをスローガンに掲げ、糖尿病療養指導の実践、教育、研究を3本柱に据えた活動を行う。
具体的には、学術大会の開催をはじめ、全国的ネットワークの構築(病院、診療所、薬局との連携)、医薬品情報の発信などを通して、療養指導のスキルアップを図る。
教育面では、患者の自己管理を指導する日本糖尿病療養指導士(CDEJ)の育成を目的とした研修会を開催する。また、薬局勤務の薬剤師や糖尿病専門医がいない施設の医療スタッフは、CDEJの受験資格が与えられていないため、CDEJ認定機構と連携しながら、薬局薬剤師のCDEJ受験資格取得に向けた方策を検討する。
研究では、糖尿病を専門領域とする薬剤師の療養指導の成果を明らかにするための研究を推進する。
なお、学会の理事長には厚田氏が就任する予定。
キックオフ・シンポを開催
6日には、キックオフ・シンポジウムを開催。シンポジウムでは、糖尿病専門病院で薬剤師として療養指導を行っている西村博之氏(陣内病院薬剤部)から、高温環境下でもインスリン製剤が保管できる方法を検討した結果が報告された。
使用中のインスリン製剤は、直射日光などを避け、室温で保管することとなっているが、外回りの営業マンやクラブ活動など、日中に屋外での活動に従事している患者は、特に真夏にインスリン製剤を高温条件下で保管せざるを得ないこともある。
ただ、インスリンの保管方法を誤ると、熱変性して全く効果のないインスリン液を注射し続けることにつながりかねないため、患者への適切な保管方法の指導は、療養指導を行う上で重要度が高い。
そこで、西村氏らは、タオルや保冷剤、クーラーボックスなどを用いて高温条件下でのインスリン保管方法を評価。タオルで保護した、150gから350g程度の保冷剤を保冷バッグかクーラーボックスに入れて密閉し、自動車の後部座席下に置けば、8~9時間にわたり適切な温度で保管できることを明らかにし、患者の療養指導に役立てているという。
また、薬局薬剤師として療養指導を行っている佐竹正子氏(恵比寿ファーマシー)は、低血糖の知識がなく、低血糖時にブドウ糖をのまなかったという患者を減らすため、低血糖について詳しく指導する機会を定期的に設けていることや、喫煙による血管合併症への影響を考え、内科医、眼科医と連携し、網膜症発症を予防するための禁煙指導を行っていることを紹介した。