日本製薬工業協会専務理事 川邊 新
2011年3月11日に発生した東日本大震災は、被災地に甚大なる被害をもたらしました。被災地の皆様に心からのお見舞いを申し上げると共に、一日も早い復旧、復興をお祈り申し上げます。
この大震災は原発事故と相まって、被災地のみならず、わが国全体に大きな影響を与えた。製薬協会員会社でも、従業員への被災、工場の損壊、節電対応等、様々な影響を受けたが、製薬産業の使命として、何よりも優先されたのが被災地への医療用医薬品の提供であった。
製薬協では、直ちに災害対策本部を立ち上げ、会員会社から必要とされる医薬品を無償で提供いただき、24時間体制で提供作業を行った。
当初は輸送手段がない状態のところを、日本医師会が米軍と交渉してチャーターした輸送機を使って、約10トンの医薬品を被災地に送ることができた。その後も厚生労働省の要請に基づき、数次にわたって合計約30トンの医薬品を被災地に提供した。結果的には、医薬品の供給については、被災地のニーズに全体としては応えられたものと考えているが、反省点も多い。
その第一は、震災の影響で道路が寸断され、輸送手段がなく、最初の医薬品の提供までに1週間もかかってしまったことである。その第二は、被災地現地の、例えば避難所ごとなり地区ごとなりの細かい医薬品へのニーズが把握できず、医薬品の量が過剰であったり、ほとんど使われない医薬品があったことである。
この最大の原因は、厚労省、被災地の行政当局、日医、日本薬剤師会、日本医薬品卸業連合会等関係する機関、団体と初動時に一体となって対応するという連携ができなかったことにあったといえる。
製薬協では、この反省点を生かし災害対策マニュアルを作成し、関係機関、団体と共有していくこととしている。
この震災以外でも、製薬協会員会社にとって11年は大変厳しい年であった。まず、税制改正では、法人税の5%引き下げの財源として、研究開発税制の控除枠30%が20%に引き下げられ、災害復興増税と相まって、他産業では全体として減税であったにもかかわらず、唯一増税となってしまった。
研究開発が命である製薬産業を成長産業として位置づける政府の「新成長戦略」に則れば、一日も早く30%に戻すべきであり、製薬協としても関係方面に理解を求める活動を強力に展開していくこととしている。
薬価制度については、10年4月から試行実施されている「新薬創出・適応外薬解消等促進加算」制度の本格実施・恒久化を求めてきたが、結果的には引き続き試行を継続させることとなった。また、新たにこの仕組みの検証・評価として、14年度の薬価改定時に、新薬等創出加算を一定額以上受けているが、未承認薬・適応外薬の開発要請を受けていない、いわゆる「ミス・マッチ」についての業界全体の取り組みを検証することとなった。
このミス・マッチについては、要請を受けていない会社は、既に適応外等に対応済みの会社もあり、要請を受けてもやらない場合のものと同列に扱うのは問題と考えており、どのような取り組みが可能なのか慎重な検討が必要となろう。
なお、後発品の使用が政府目標に達していないことを理由に、今回も長期収載品等について、ルール外で約250億円もの追加引き下げが行われたことは誠に遺憾であり、断じて容認できることではない。
本体で約5000億円の引き下げを行っているにもかかわらず、政府の財政事情で不透明な引き下げを行うことは、成長産業たる製薬産業に対する実質的な増税措置であると言わざるを得ない。さらに、市場拡大再算定の拡大等、業界の主張と逆行する措置が行われたことも誠に残念なことと言わざるを得ない。
明るい話題としては、2年半の間、開かれなかった官民対話が「医薬品・医療機器産業発展のための政策対話」として、12月14日に開催されたことである。内閣府、文科省、厚労省、経産省のトップと製薬産業のトップが直接政策について協議する場が復活したことは、大変意義深いものと言える。今後、定期的に開催され、実りある議論が展開されることを期待したい。
12年の展望であるが、前記に述べた諸課題への対応と共に、ヨーロッパの経済危機をはじめ、世界経済、日本経済は予断を許さない状況であり、円高も相まって、製薬産業にとって厳しい環境になるものと思われるが、国民が求める革新的新薬の創出に向けて引き続き努力をして参りたい。