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鬼や神について‐作家 高田崇史

2013年07月04日 (木)

埋もれた歴史の闇に光を

 このように「鬼」や「神」や「妖怪」たちに対する日本の歴史や風習には、とても多くの謎が残されています。たとえば、桃太郎に退治されてしまった鬼たちは、彼らに対して一体どんな悪いことをしたのか。大江山で首を落とされた酒呑童子は、最期になぜ「鬼に横道(邪な心)なきものを!」と叫んだのか。四天王に踏みつけられている天邪鬼や夜叉の指は、なぜ三本しかないのか。どうして河童は、キュウリばかり食べているのか――

 実に、我々の周りは謎だらけです。

 そして、こうして色々な謎を追って行けば行くほど、歴史は暗記科目であるという考え方は間違っているのではないかと感じるのです。歴史というのは「覚えるもの」ではなく「考えるもの」なのではないでしょうか。年号を暗記することも、確かに大切でしょう。

 しかし、もっと重要なことが忘れ去られているような気がしています。それは、歴史書の行間に埋もれてしまった昔人の悲嘆や慟哭に耳を傾けることであり、同時に、表立って書き残すことのできなかった彼らの真意に寄り添うことです。

 鬼や天狗や河童や天邪鬼や土蜘蛛――と呼ばれた人々――の声に耳を澄ませること。それこそが、本当の意味で歴史を学ぶということなのではないか。

 そんなことを『QED』シリーズでは書いてきました。

学校薬剤師の認知に一役

 余談ですが、これらの話を書くに当たって一番悩んだのは、主人公をどうしようかということでした。考え抜いたあげく、やはり(自分自身が薬剤師として漢方や調剤を勉強していた頃でしたので)素直に、薬剤師を主人公にしようと決めました。またその頃、

 「薬剤師が主人公の小説は読んだことがない」

 などという話を、何度も耳にしたという理由もありました。

 作家自身が薬剤師ということであれば横溝正史さんや、海外ではアガサ・クリスティー女史がいましたが、確かに当時は、主人公や探偵が薬剤師というパターンは見当たりませんでした。そこで、主人公で探偵役の男性を「漢方薬局勤務」、補佐役としての女性を「調剤薬局勤務」兼「学校薬剤師」としてみました。

 (また「薬剤師」がいるならば「毒草師」もいても良いだろうと思い、そんな怪しげな肩書きを持つ男性も登場させました)

 そして実際に世に出してみると、「学校薬剤師」という分野の仕事自体をご存じなかった方々も多いようで、

 「そういう役職名を初めて耳にしました」
 「いつも学校にみえていた白衣の人たちがそうだったんですね」

 などという声が返ってきて、これは密かに「学校薬剤師」の一般化、全国的普遍化に、多少なりとも一役買ったのではないか……などと一人ほくそ笑んでいたりするのです。


高田崇史(たかだ・たかふみ)

 作家、昭和33年東京都生まれ。明治薬科大学卒。薬剤師。『QED 百人一首の呪(しゅ)』で、第9回メフィスト賞を受賞してデビュー。以来、講談社ノベルスから13年間にわたり、“薬剤師”である主人公の桑原崇と棚旗奈々が活躍する『QEDシリーズ』17冊・番外2冊を出版、シリーズ累計は130万部を突破している。龍馬暗殺、将門伝説のほか、東照宮、出雲、諏訪など各地に伝わる歴史の闇の謎解きと推理小説を融合させた独自のスタイルを確立し、昨年10月発行の『QED 伊勢の曙光(あけぼの)』で完結。ほかに闇に葬られた「裏日本史」解明の『カンナシリーズ』や『麿の酩酊事件簿シリーズ』、昨年、石原さとみ、中村獅童(声の出演)でアニメ映画化・公開された『鬼神伝』など著作多数(いずれも講談社)


この記事は、「薬事日報」本紙および「薬事日報 電子版」の2012年1月1日特集号‐新春随想‐に掲載された記事です。


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