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【塩野義製薬】グローバルな耐性菌問題への積極的な取り組みについて

2014年3月28日 (金)

塩野義製薬執行役員海外事業本部長 竹安正顕

はじめに

 ペニシリンの発見に始まる各種抗菌薬の発見と開発の歴史は、薬剤耐性の進化の歴史でもあります。最近の多剤耐性グラム陰性菌を含めた各種薬剤耐性菌の出現と増加は、世界の医療界の脅威となっています。薬剤耐性菌の存在は、抗菌薬の宿命であり、人類は耐性菌との戦いにおいて新規抗菌薬の研究開発を続けなければなりません。これまで日本の医療において多剤薬剤耐性菌は比較的制御されてきました。それは日本の医療従事者の感染制御の努力によることが大きいものと思われます。感染症は地域性がありますが、薬剤耐性菌がグローバルに伝播する時代において、日本の医療安全のためにより一層の警戒と、さらに耐性菌に有効な新薬がまず日本独自に必要とされる時代になっています。感染症対策は、国家レベルでのリスクマネジメントと認識すべき時代となっています。

抗菌薬研究開発とβ-ラクタマーゼ進化の歴史

 β‐ラクタム薬の研究開発の歴史は、1929年A.FlemingによるペニシリンGの発見に始まり45年に発見されたセファロスポリン系抗菌薬につながります。60年代頃まで、細菌が生産するβ‐ラクタマーゼには、ペニシリナーゼ、セファロスポリナーゼおよび広域活性β‐ラクタマーゼがありました。プラスミド性の広域活性β‐ラクタマーゼ(TEM‐1産生菌等)は、60~70年代に発見され急速に腸内細菌に広がっていったため、それらに安定なβ‐ラクタム剤の研究開発が70年代中ごろから進められました。代表的な薬剤にはいわゆるIII世代、IV世代セフェムなどがあります。80年代以降、それらに耐性のグラム陰性菌が出現しました。それらはAmpC遺伝子発現亢進変異株、プラスミド性のTEM‐1遺伝子突然変異株、CTX‐M型株、OXA型変異株等によるもので急速に世界中に広がりました。これらは現在、広義のESBLと呼ばれるものです。

 カルバペネム系抗生物質では、IPM/CSが85年に使用が始まりましたが、プラスミド性のカルバペネム分解酵素産生緑膿菌は91年に日本で最初に報告されました。近年のカルバペネマーゼ産生菌は今日、臨床上最も重要な薬剤耐性菌の一つとなり、世界的な広がりをみせています。

 わが国の製薬企業は弊社も含めて、II世代、III世代セフェム、カルバペネム系抗菌薬等を順次開発し、細菌感染症、耐性菌に対応してきました。そして医療においてそれらの新しい抗菌薬が適宜必要な患者さんに使用されてきました。これは、単に日本の製薬企業の創薬力によるものだけではなく、国民皆保険制度の恩恵であると共に、医師の技術、見識等の高さに起因するものと考えられます。

腸内細菌から自然環境菌へ有効なβ‐ラクタム薬の開発

 グラム陰性菌の細胞外膜は、抗菌薬の細菌内への通過障壁となります。細菌は、元来の生叢環境の違いにより、物質の(外膜の)通りやすさに違いがあります。β‐ラクタム剤の研究開発の歴史は、比較的薬剤等が通過しやすいとされる外膜porin孔を持つ腸内細菌(大腸菌等)への抗菌薬に始まり、時代と共に、薬剤等の通過が難しいとされるOccD孔を持つ自然環境菌(緑膿菌やアシネトバクター等)にも有効な薬剤の研究開発へと進化してきました。

 例外はあるものの、自然環境菌等に抗菌活性のある薬剤はOccD孔ですら通過するため、広域の抗菌活性を有するのが一般的であり、これは薬剤の特性による必然でもあります。

感染症の地域性

 細菌感染症および原因菌等は病院、地域、国等により異なるため地域性があります。人種、医療制度、医療経済等も国により異なり、薬剤の副作用も人種により異なります。そのため感染症治療または抗菌薬療法にも地域性が生じます。日本を含め各国にはそれぞれこれまでの抗菌薬療法の歴史があり、それにより生まれた耐性菌の状況があって、その環境下において最適な治療が行われることが重要であると考えられます。

 適切な感染症治療の原則は、初期感染巣、患者の合併症、感染症原因菌(empiricおよび同定菌を含む)、同定菌の薬剤感受性、患者状態、患者の免疫機能(自然感染防御機能、または獲得免疫機能等)、病院における各種臨床分離菌の薬剤感受性、院内感染菌の有無等々により、それぞれ適正な抗菌薬が選択されるべきであることは、言うまでもありません。特に、免疫機能が減弱した重症例には、第IV世代セフェムやカルバペネム等のより広域の薬剤が必要となる場合があります。推測し得る(empiric therapy)原因菌に抗菌活性の強い薬剤により、可能な限り短期間に治療することが重要と考えられます。

抗菌薬による薬剤耐性菌の選択

 抗菌薬は、人体に作用する他の医薬品とは異なり、他の生物である細菌に作用します。そのため細菌叢に薬剤耐性菌が存在する時、抗菌薬により感受性菌が減少し、耐性菌が選択されます。臨床的には、薬剤耐性菌保菌患者または院内感染患者において、抗菌薬の使用により耐性菌による菌交代現象が起こり治療に失敗することがあります。生物学的には、細菌生態系に影響を及ぼします。腸管には約1000種類の細菌による正常細菌叢が存在し、人と共存する生態系が形成されています。この中で腸内細菌等の人に感染症を起こす日和見感染菌は20~30種類程度であり、ほとんどの細菌は各種抗菌薬に感受性を示します。正常細菌叢は、外来性の病原細菌や薬剤耐性菌および日和見感染菌の増殖を抑制する働きがあります。

 一方、抗菌薬の大量投与や長期投与は、正常細菌叢を破壊し、薬剤耐性菌や日和見感染菌等の増殖を惹起する要因となります。特にグラム陰性菌の薬剤耐性菌は、腸管で進化し増殖し薬剤耐性病原細菌の起原となります。抗菌薬の吸収と排泄系路等により、細菌の腸管生態系への影響に違いが生じます。抗菌薬の研究開発においては、感染症を的確に治療できること、また副作用が少なく細菌叢を過度に破壊しないような薬剤が求められます。

塩野義の取り組み・開発

 抗菌薬はその宿命として耐性菌を選択し、経時的に薬剤耐性菌が選択され抗菌力が低下するため、抗菌薬を販売する企業は次の新薬を準備する義務がある、と考えています。しかしながら現在世界の主要企業でβ‐ラクタム薬の研究開発から製造まで一貫して自社で行っている企業は減少しています。それはβ‐ラクタム薬は独立した工場で製造することが義務づけられ、しかも抗菌薬が短期収益を上げることが比較的困難である等の経営的要因が大きいためです。

 塩野義は、これまで60年以上にわたり新規抗菌薬の開発に取り組んできました。塩野義研究所が創生したスルファメトキサゾールは初めて海外で広く使用され、後にST合剤に発展し、世界で広く使用されています。オキサセフェム系抗菌薬ラタモキセフは、ESBL産生菌が蔓延する中国で、国家全国感受性サーベイランスに基づく抗菌薬の再評価により最近高く評価されています。同様に台湾、韓国ではフロモキセフが広く使われています。経口薬セフチブテンは、抗菌域は狭いものの、ESBL産生腸内細菌に比較的強く、欧州、北米、南米で使用されています。

 塩野義は、抗菌薬開発戦略を重症感染症及びβ‐ラクタム薬新型耐性菌に目標を絞り、2005年には緑膿菌を含む広域抗菌活性のカルバペネム系抗菌薬ドリペネムを発売しました。一方、医療で脅威となっているカルバペネマーゼ産生グラム陰性菌に有効な抗菌薬はなく適切な治療方法もないのが、厳しい現状です。

 そのような環境にあって、塩野義は、今後も耐性菌による重症感染症の克服を目標に、グローバルに新たな感染症治療薬の開発に積極的に取り組んでいきます。


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