ITソリューションで効率化実現‐“煩雑な在宅業務”背景に
東京・神奈川・埼玉を中心に、地域密着型の調剤薬局48店舗を展開する徳永薬局(本社東京都稲城市)では、『地域でまた行きたい薬局のNo.1になる』ことを企業理念に掲げ、地域ニーズに合わせた薬局作りを行っている。同社ではかかりつけ薬局を目指す中で、在宅医療への取り組みにも注力しているが、質の高い在宅医療を円滑に提供するには多職種間の連携が欠かせない。さらに、薬局での通常業務を行いながらの在宅業務では、書類作成等の煩雑な作業が必要となってくる。そこで同社では、ITシステムを積極的に在宅業務に取り込んで、業務効率化につなげている。
在宅は書類作成や報告が必須
薬局における在宅医療は、医師の指示で患者の自宅やグループホーム・老人ホーム等の施設に薬剤を持って訪問し、薬についての相談や必要なアドバイスを行うことが中心となる。徳永薬局の約半数の店舗では、施設の在宅業務を中心に行い、特に在宅医療に重点を置いた東京・神奈川の5カ所の拠点薬局が、主に個人の居宅に対応する。
同社では2010年3月に「在宅部」を新設し、在宅医療へ本格的に着手することとなる。この在宅部の拠点となっているのが、唐木田薬局(多摩市)、稲城坂浜薬局(稲城市)、徳永薬局成瀬在宅センター(町田市)、徳永薬局鴨居在宅センター(横浜市)、徳永薬局相武台在宅センター(相模原市)の5カ所で、在宅センターの名称が付いた3薬局には、それぞれ無菌調剤室も完備している。
昨年12月時点の数字では、徳永薬局在宅部全体での在宅患者数は約1500人で、うち600人ほどが個人で、残りが施設の患者となる。個人宅についてはだいたい月に30~40人が亡くなるケースが多いが、それと同様、あるいはそれ以上の依頼が来る状況という。
同社在宅部では、慢性疾患の患者の訪問から、胃ろう・IVH(中心静脈栄養法)まで幅広く対応し、さらに終末期・癌末期患者の疼痛管理にも特化しており、在宅業務専任の13人の薬剤師が365日・24時間の緊急対応(オンコール体制)を取っている。
前記した在宅医療拠点薬局で導入しているのが、EMシステムズが今年から提供を開始した、調剤薬局の在宅療養支援業務をサポートする新たなソリューション「ランシステムNEXT」。EMシステムズの主力レセプトコンピュータ「Recepty NEXT」と連動したiPad専用のアプリケーションである「ランシステムNEXT」は、高い携帯性と機動性も特徴で、患者の基本情報から薬の処方情報、服薬指導歴、医師への報告書・計画書まで一元的に管理することを可能にする。書類作成の効率化はもちろん、情報の検索性や一貫性などの面でも高い効果が期待できる。
徳永薬局在宅部の責任者(統括部長)で薬剤師・ケアマネージャーの小林輝信氏によれば、在宅業務では複数の書類を作成しなければならず、重複した内容を書かなければならないなど書式方法や記載の仕方の問題、さらには他職種への報告も煩雑といった点も挙げられる。これまで10年以上も在宅訪問業務に関わってきた小林氏は、こうした業務効率化に向けエクセル等を利用しての簡素化や、iPad発売を機に独自の在宅報告書作成システムを開発するなどの試行錯誤を続けてきた。
薬剤師目線のシステムが武器
そして昨年、在宅業務用アプリ「ランシステム」を完成させた小林氏は、さらなる進化を目指してEMシステムズと共同開発により「ランシステムNEXT」が完成した。現在、多くのレセコンメーカーから在宅支援ツールが販売されているが、「EMシステムズでは在宅医療の重要性や薬剤師の業務負担軽減に熱意と理解を持っており、Recepty NEXTとの双方向連動が実現できた」とする。
「ランシステムNEXT」は必要書式のひな形が備わっており、画面のフロー項目に沿って問診を行い、その内容に合致する選択肢を選ぶなど、簡単な入力作業を行うだけで報告書や訪問薬剤管理指導記録簿などが完成する。「最も力を発揮するのが医師と共に施設に同行した際で、患者との会話を打ち込んで送れば報告書もできる。個人宅では1対1で話している際や、車に戻ってから聞いた内容を打ち込む形。作業的には導入前に比べ、半分くらい効率化できていると思う」(小林氏)
1枚につき10分を要していた書類作成時間が半分になることで、小林氏は他の患者宅を回れることが非常に大きいという。「要は効率化して楽をするのでなく、現在、在宅の患者さんがどんどん増えており、患者さんを救っていくためにも効率化していかないといけない」と強調する。
iPad用アプリ「ランシステムNEXT」は、在宅療養ケアに携わる薬剤師の「こうしたかった!」を実現する機能を備えているが、その理由は基本的なシステムを薬剤師が作り、それをSE(システムエンジニア)が監修している点にある。
在宅業務では、今日訪問した患者が翌日に亡くなったり、服薬状況も日々変化するなどイレギュラーな部分が非常に多いという。「実際にSEの方が在宅現場に同行し、往診の際にも同行して患者の看取りなどの行動も一緒に体験しているので、私たちのニュアンスを分かってもらえる。完全に“薬剤師目線”で出来上がっていることが同システムの最大の特徴といえる」(小林氏)
現在は打ち込んだデータが報告書にはなるが、薬歴までにはならないため、最終的には「完全薬歴連動を目指したい」とする小林氏。レセコンシェアトップのEMシステムズとタッグを組んで、「少しでも日本の在宅医療を牽引するような役割ができれば」と、さらなる進化型の開発を目指している。
徳永薬局(EMシステムズ)
http://www.emsystems.co.jp/