SMO市場規模は昨年度まで大幅な変動はなかったが、コロナ禍によって市場と企業業績が影響を受けることは必至のようだ。日本SMO協会(JASMO)は、滞っていた治験が動き出したことに対応して、会員各社が従来業務を着実に進めていくことに加え、コロナ禍も相まって加速しているデジタル化の流れを着実に捉えて関連施策に取り組んでいく方針も明らかにした。また、データインティグリティ(データの完全性)を重視して、製薬業界を挙げた活動なども行っている。牧敬二、三嶽秋久両副会長に協会と業界の直近の動向を聞いた。
JASMOが実施した4月現在の調査では、会員数は24社であり、SMO事業の売上高は約350億円、従業員数3241人、CRC2709人となっている。
売上高は、これまでと同水準で推移していて市場規模に大きな変化はないが、売上高30億円以上の4社で売上占有率84%と市場の寡占化は進んでいる。
在職のJASMO公認CRC取得者数は1583人、日本臨床薬理学会認定CRC取得者数は256人である。プロトコール数は企業合併の影響もあり2016年の5076件をピークに年々減少して19年は3575件となった。対象疾患別では生活習慣病が減少して癌が増加し、実施医療機関は診療所が減少し大病院は横ばいで推移している。
SMO業界の現場では、新型コロナウイルス感染症の影響で、新規症例の組み入れが中断したり、新規治験のスタートが大幅に遅れている状況にあり、今年は市場規模、各社の収益は低下すると予想されている。
牧氏は、「ここに来て新たな治験が徐々にスタートして増えてきている。SMO業界はメーカーの治験次第であるが、完全にストップすることは考えられない。コロナ禍ではあるが、メーカーと共に必要な医薬品の開発は進めなければならないとの使命感を持って、コロナ感染のリスクを承知の上で、CRCは医療機関での業務遂行に努めている」と現状を説明した。
また、感染リスクを低減するため、会社に立ち寄らず医療機関との直行直帰が増えるなど働き方も変化したという。
「疾患領域別では、コロナ禍であっても癌領域は中断や中止することはできないので、被験者、医師、スタッフが細心の注意を払いながら進められている。致死的ではない他の疾患領域では、ストップしたり開始が遅れたりしていたが、最近になってやっとスタートしている状況だ。われわれはメーカーと共に、治験を粛々と進めていく責務がある」と三嶽氏。
SMO業務は、CRAとのコミュニケーションを密にして遂行する必要があるが、以前のように面会することは難しいので、電話やメール、ウェブ会議等で対応しているという。今後は、eConsent(電子的同意取得)、ePRO(患者情報アウトカム)、eSource(原資料となる電子記録)など電子化の取り組みが増えることを見越して、データ取り扱いの確認、手順の見直しに着手する。
これから遠隔診療も組み合わせた新たな治験方法が出現する場合には、SMOが中心になっていくと予想する。試験計画やプロトコールは依頼者が作成するが、現場で治験を組み立てていくことに関して、今年、この取り組みが加速化している。
両氏は、デジタル化を進めなければ、グローバル治験に取り残されてしまうと懸念する。グローバル治験のツールの多くは日本で開発されたものではないことから、一つのハードルになっているが、デジタル化、IT化、オンライン化によって効率化が図られる。今は過渡期にあり、手間はかかるが進めていかなければならないとの認識を示した。
従来とは違う取り扱いになるため、チェックリストを作成して共有していくほか、JASMOでは、データインティグリティも重視して、関係者全員が取り組める体制も整備し、データの信頼性に関する意識を変革させるよう注力している。JASMO、JCROA、製薬協の3団体でデータインティグリティの推進に関する協議会を設置して進めており、製薬業界全体でデータの信頼性の重要性について同じ意識を共有して進めていく考えだ。
また、協会と各社では教育の課題に対しても、会場での集合教育からオンラインへの移行等、いろいろと工夫しながら行っているようだ。