2008年も間もなく暮れようとしている。そこで、恒例の薬業界10大ニュースを選んでみた。今年は診療報酬・調剤報酬が8年ぶりのプラス改定となって医療界が沸き立つ一方、薬価改定はさらに深掘りされて5・2%の引き下げが行われた。医薬品業界にとっては大きな打撃となったが、これを薬価制度の抜本的見直しへの推進力に振り向けたい。昨年の流改懇緊急提言を受けて、流通改善への取り組みが進められ、一定の成果は上げたものの、価格競争の再発を招くなど課題も露呈した。また、一般用医薬品の新しい販売制度は、来年6月の改正薬事法施行によりスタートすることが決まったが、インターネット販売の是非をめぐって、今なお激しい綱引きが続いている。このように、今年は新しい制度や仕組み、慣行の確立を目指し、業界を挙げてチャレンジした年と言えるのではないか。
調剤報酬8年ぶり引上げ‐後発品促進の鍵が薬剤師に
中医協が8年ぶりのプラス改定を答申
診療報酬・調剤報酬は、2000年度以来8年ぶりに、本体が0・38%引き上げられるプラス改定となった。2月13日の中央社会保険医療協議会総会で答申された。改定率は医科1:歯科1:調剤0・4の原則が堅持され、調剤は0・17%引き上げられた。なお、薬価の引き下げ率は5・2%であった。
今回の改定では、「後発品の使用促進」が大きく取り上げられた。目玉となったのが処方せん様式の再変更。後発品への変更可という場合にチェックする06年度様式から、後発品処方が大原則となり、変更不可の場合だけチェックする方式に改められた。
新たな様式の下で、薬局が後発品使用の鍵を握ることになった。そのため、調剤基本料42点を40点に引き下げる一方で、後発品調剤率30%以上の薬局が算定できる「後発医薬品調剤体制加算」(4点)が新設された。さらに患者の不安を和らげるための「後発医薬品分割調剤」(5点)の新設や、後発品間の銘柄変更も認められた。
また、薬剤服用歴管理料と服薬指導加算の2本立てが分かりにくいという指摘を受け、薬剤服用歴管理指導料一本(30点)に統合された。一方、後期高齢者には、お薬手帳の活用が義務づけられると共に、後期高齢者薬剤服用歴管理指導料(35点)が新設された。
病院薬剤師関係では、薬剤管理指導で患者の状態に応じた区分が設けられ、[1]救急救命入院料等の算定患者(430点)[2]ハイリスク薬の使用患者(380点)[3]これら以外(325点)――となり、有床診療所での算定も可能となった。
そのほか、癌診療に関して専門の医師、薬剤師、看護師を配置する施設を、外来化学療法加算1(1日につき500点)で評価し、緩和ケア診療加算では専任薬剤師の配置が要件に追加された。
医療用医薬品の流通改善‐一定の評価も勝負は後半戦
医療用医薬品の流通改善に対する機運は、昨年9月にまとめられた「医療用医薬品の流通改善に関する懇談会」の緊急提言で一気に高まった。サプライチェーンの川上と川下に直接関与する中間流通業の医薬品卸は、“ラストチャンス”との共通認識のもと、不退転の決意を胸に主体的かつ鋭意取り組んだが、現在までの状況からは、メーカーや医療機関・調剤薬局とは、認識と行動の面で温度差があることは否めない。
未妥結、総価取引の改善について流改懇では、長期未妥結とされた薬価改定から6カ月後の9月末現在における妥結率70・9%、全品総価契約の大幅な減少などに一定の評価が示されたが、なお不十分だとの指摘も多々あり、後半戦の取り組みに寄せられる期待は大きい。
大命題である早期妥結を急いだことも引き金となり、再び卸同士の競争を激化させ、経営を悪化させたことに対する印象の悪さは拭えない。流通改善は達成したものの、日本型の医薬品卸が消滅しては本末転倒との声がある一方で、時代の潮流には逆らえないという諦めムードがあることも事実だ。
今後、薬価制度改革論議を含め、激変する可能性が大きい医薬品流通の動向を注視していく必要がある。
薬価制度の見直し本格化‐業界案を叩き台に検討開始
薬価制度の見直し論議が、7月9日の中央社会保険医療協議会薬価専門部会で本格的に始まった。日本製薬団体連合会は、特許・再審査期間中の新薬の価格を維持する代わりに、後発品が発売された時点で価格を大きく引き下げる「薬価維持特例」を柱とする新薬価制度の導入を提案した。
業界側は、薬価維持特例の導入により、企業が創出する新薬の革新性が適切に評価され、新薬研究開発資金を早期に回収できるようになれば、日本発の画期的新薬、未承認薬の開発が進むなどのメリットを強調した。
これに対し支払・診療両側の委員からは、「医療崩壊」の状況下で、特許・再審査期間中に限るとはいえ、新薬の価格を引き下げない仕組みをつくることについて、慎重論が出ている。
財政への影響について業界側は、新薬の薬価を下げずに維持しても、特許切れ後に後発品への置き換えがスムーズに進めば、トータルの薬剤費はそれほど膨らまないと主張。
しかし、診療側や支払側には、「後発品の使用が思うように進まなかった場合はどうするのか」「制度導入のメリットを、国民や患者に分かりやすく説明できるのか」といった懸念がある。今後は、後発品の使用が確実に進む方策と、薬価維持特例で得られた収入が、革新的新薬の創出や未承認薬の開発へ振り向けられる仕組みを、業界全体でどう構築するかが議論の焦点になってくる。
新販売制度の骨格を提示‐ネット販売めぐり対立激化
医薬品販売に関する改正薬事法の運用を示す政省令案、各種告示案が今年9月に公表され、パブリックコメントの募集が行われた。これは、「医薬品の販売等に係る体制及び環境整備に関する検討会報告書」の内容を、具体的な形で示したもの。
省令案は、登録販売者制度の導入によりテレビ電話販売に係る項目が削除されたほか、販売時以外は閉鎖できる陳列設備など、報告書に沿った内容だ。また“薬局医薬品”という考え方が盛り込まれ、薬剤師のみが扱うことのできる一般薬以外の医薬品を規定した。
さらに、郵便その他の方法による医薬品の販売では、第3類薬以外の医薬品を販売してはならないことが明記された。
しかし、この点に対しては、インターネット販売業者や規制改革会議が猛反発。日本オンラインドラッグ協会などは利便性を強調すると共に、通信販売での購入が不可欠な多様なニーズがあることなどを挙げ、通信販売の継続を求めた。
一方、日本薬剤師会や日本チェーンドラッグストア協会など薬業団体は、一般薬の販売は対面販売が原則との考えを主張。インターネットによる販売は禁止すべきとの共同声明を発表した。全国薬害被害者団体連絡協議会などの薬害被害者団体や消費者団体も、消費者の求める利便性は、あくまで安全性を前提にしたものと主張し、一般薬のインターネット販売を全面的に禁止する要望書を、野田聖子消費者行政推進担当相に提出した。
双方の対立の構図は、今なお続いている。
武田薬品、米ミレニアムを傘下に‐例のない巨額買収劇
武田薬品は4月、米大手バイオ企業「ミレニアム・ファーマシューティカル」を約88億ドル(約8900億円)の現金で買収した。過去に例を見ない巨額の買収劇は、癌領域強化を目的に断行したもので、成長を支えてきた生活習慣病領域のブロックバスターからアンメットニーズへと、ビジネスモデルの大転換を宣言した格好となった。
ミレニアムは、ブロックバスター候補の多発性骨髄腫治療薬「ベルケード」を有する世界有数のバイオ企業であり、癌領域と炎症領域に充実した開発パイプラインを揃えている。それに対し生活習慣病領域に強い武田薬品は、出遅れていた癌領域への対応が急務になっていた。
ミレニアムの買収は癌領域強化の一環で、武田グループの癌領域の中核を担う会社と位置づけると同時に、主力品の米国特許切れが相次ぐ「2010年問題」をカバーする狙いも大きな背景としてあった。
ただ、約8900億円に上る巨額買収劇は、過去には考えられなかった動きであることも確か。「今回の買収は、過去にない巨額の投資であり、何が何でも将来の持続的成長に大いに貢献するよう、総力を結集して取り組んでいきたい」と力説した長谷川閑史社長の言葉は、国内トップの武田でさえ、将来の生き残りが切迫していることを如実に示している。
Dgs、調剤の最大手が動く‐提携で店舗・人材を強化へ
提携を発表する大谷喜一アイン社長(左)
と村田紀敏セブン&アイ社長
来年6月から登録販売者制度が施行予定とあって、ドラッグ業界の競合環境が一層厳しさを増すのは確実だ。既に昨年からM&Aや業務・資本提携等の業界再編が加速されているが、今年もいくつかの大きな動きが見られた。
調剤薬局最大手のアインファーマシーズは8月に、セブン&アイ・ホールディングスとの業務・資本提携を発表した。アインは昨年、ドラッグ大手のCFSコーポレーションとの経営統合を発表したが、CFS株主でもあるイオン側の強い反対で、年初に不成立となった経緯がある。
今回の提携は、GMS、コンビニ、スーパー等の業態を擁する日本を代表する小売グループと、調剤薬局展開や薬剤師教育ノウハウではトップクラスとされるアインが、店舗や商品の共同開発、人材教育で協力することが目的。いよいよ年明けから提携効果が発揮される見込みだ。
ドラッグストア業界最大手のマツモトキヨシホールディングスも、10月末に調剤薬局大手の日本調剤と、業務提携に向けた協議を開始すると発表した。
マツキヨ側は今後の重点戦略に調剤事業の強化を挙げており、調剤薬局の効率的な運営ノウハウを獲得できる。一方の日調側は、面対応薬局の拡大という狙いはあるが、何といっても後発医薬品メーカーの子会社を通じ、全国展開するマツキヨグループへ、医薬品を大量に供給できるメリットは大きい。今後は人材募集や育成面でも、提携効果を探っていく考えだ。
初の「登録販売者試験」、合格者は全国で4万人余
5000人が受験した東京の試験会場
来年6月の改正薬事法完全施行により、新しい医薬品販売制度がスタートする。業界内外を含めて注目されるのが、薬剤師以外の医薬品販売専門家として店頭に立つ登録販売者だ。その資質を認定するための登録販売者試験が実施された。8月から順次行われた第1回試験では、全都道府県で6万0271人が受験し、4万1190人が合格、全国平均の合格率は68・3%だった。
登録販売者試験の実施主体は都道府県であるが、各自治体では近隣ブロック単位で試験問題の共同作成、受験地分散化の意味を込めた試験日の統一(全国7ブロック)といった動きが見られた。一方、試験問題については、ほとんどの自治体で出題ミスが発生するなど、今後の課題も残った。
都道府県別の合格率では、最高の神奈川県84・5%と、最低の愛媛県36・9%の間には、実に50ポイント近い格差が生じた。ブロックごとの合格率も関東エリアなどが高く、北海道・東北、四国では低いという傾向が顕著に現れた。受験者のレベルの違いというだけでは説明がつかず、出題内容に難易差があったとの見方がされている。
登録販売者試験は今年度1回以上実施することになっており、2回目の試験も昨日25日の関東エリアを皮切りに、来年2月末までに32都道府県で実施される予定である。
加速する医薬品卸のM&A‐来年4月にAMPH誕生へ
大手医薬品卸同士の合併により、年商4兆円を超える巨大卸誕生のニュースが、業界の話題をさらった。言わずと知れた、業界トップと2位が統合した「アルフレッサ・メディパルHD」(AMPH)のことだ。一連の流通改善への取り組みが終了した後の、医療用医薬品卸業の姿を想定した経営戦略的な選択と見ることもできる。現在、その市場寡占率の高さから、公正取引委員会預かりになっている。
市場経済においては、スケールメリットの追求は当然であるが、医療用医薬品には他の経済市場と大きく異なる要素、つまり医療保険という公的財源で賄われているという大前提がある。国家としての医療費抑制への動きは、日本に限ったことではない。国や制度がどのように動こうとも、生き残っていける規模と機能を備えるための選択肢だろう。
一方、中央の巨大卸の動きに対して、主要地方卸も存在感を示すべく行動を起こした。東北・新潟を拠点とするエリアトップ卸のバイタルネットと、近畿圏で3位にいるケーエスケーによるHD設立、経営統合が発表された。共同購入などへの対応も視野に、ある程度のパワーを獲得し、「地方も元気に、地方からの発信」をキーに進められている。
来年は、業界3位のスズケン、4位の東邦薬品(HD化は発表)の動きからも目が離せない。
下村脩氏にノーベル化学賞‐薬学出身者で初の快挙
下村脩氏。右下の光っているボトルには
、10万匹のクラゲから精製されたGFP溶
液が入っている
(写真提供=理化学研究所)
2008年のノーベル化学賞に、下村脩氏(米国ボストン大学医学校名誉教授)が輝いた。日本人のノーベル化学賞受賞は、02年の田中耕一氏(島津製作所フェロー)に続き5人目となるが、薬学出身の研究者では初めての快挙である。
下村氏は1951年に現在の長崎大学薬学部に当たる長崎医科大学付属薬学専門部を卒業、58年に長崎大学薬学部助手、60年に米プリンストン大学へ進み、翌61年夏、ワシントン大学フライデーハーバー研究所へ滞在中に、オワンクラゲから緑色蛍光蛋白質(GFP)を発見した。受賞はGFPの発見と開発が評価されたもの。
GFPは、紫外線が当たると明るい緑色に輝く性質を持つ。この性質を利用することによって、脳神経細胞の発達や癌細胞が広がる様子など、従来は目で見ることができなかった生体反応プロセスの可視化が可能となった。今日ではライフサイエンス研究を進める上で、最も重要なツールの一つとなっている。
新薬剤師「1万人」時代へ‐薬学部は志願者減り定員割も
今春の薬剤師国家試験合格者数が、ついに1万人を超えた。2003年度から始まった薬学部新設ラッシュの影響が、本格的に現れてきた証ともいえる。厚生労働省も「合格者が1万人を突破したのは特筆すべきこと」としている。一方で入学者数が定員割れした薬学部が20校に達した。入学者が定員の約半数という大学も見られるなど、薬大経営は“氷河期”に突入した。
3月に実施された第93回薬剤師国試は、受験者数が前年より約1600人多い1万3773人、合格者数も前年を1300人余り上回り、1万0487人と初めて1万人の大台に乗った。合格率は昨年と同水準の76・1%。合格率が90%を超えたのは、最も合格率が高かった広島国際大学を含む5校で、トップ5のうち実に3校を新設大学が占めた。
今年の受験者数、合格者数の大きな伸びは、新設大学から卒業者が出始めたことが要因。03年度新設の2校に加え、04年度新設の7校から、新卒者が加わったためだ。
その一方、私立薬大では志願者が減少して定員割れが広がっており、大学経営も深刻な状況を迎えている。私立55大学のうち20大学で定員割れが起こった。定員に対する志願者数2倍未満が8校、さらに志願者数が定員以下という大学も2校あった。
総じて伝統校に比べ、新設校の志願者数が少ない傾向が見られる。しかし伝統校といえども、一部非常に高い人気の大学がある一方で、学生募集に苦戦する大学もある。今後は、新旧入り交じっての学生獲得争いが激化しそうだ。