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【2008年回顧と展望】岐路に立つ医薬品流通‐日本医薬品卸業連合会専務理事

2008年12月29日 (月)

日本医薬品卸業連合会専務理事 羽入 直方

羽入 直方氏

 激動の2008年が暮れようとしている。2年連続の総理交代で衆議院選挙が政治日程に上がりながら、百年に一度と言われる米国発の金融危機による景気後退に、政治・経済は揺れている。医薬品業界のこの一年も、潮流の大きな変化を感じさせた。

 今年は薬価改定年であり、改定幅はマイナス5・2%であったが、昨秋の薬価調査結果の乖離率は6・9%であった。前回の06年改定時の乖離率は8・0%であったので、薬価差は縮小し、医薬品流通の改善傾向をうかがわせた。この流れを受けて、昨年の「医療用医薬品流通の改善に関する懇談会」の緊急提言の実現を図ることが、今年の医薬品卸業界の主要なテーマであった。

 卸業界は、緊急提言直後にその解説版を独自で作成し、周知徹底に努めた。昨年から今年にかけては、緊急提言の趣旨に沿い、卸業界としてメーカー・卸間の利益体系の改善とその早期提示を、主要なメーカー各社に要請した。市場動向予測を踏まえた適正な一次仕切価水準の設定、割戻し・アローアンスの機能の明確化と改善が主な内容である。

 これらは川下交渉の当事者である卸にとって、生命線であり、主体性確立のための第一歩となるからである。

 しかし、メーカーの一次仕切価等の提示は、通例に比較して手早く行われたものの、その水準は総体として卸の目論見には達しなかった。これが主要卸の今年度上半期マイナス決算の一因になった。

 緊急提言の目標は、[1]未妥結・仮納入の解消[2]総価取引の是正[3]一次売差の確保――の3点であった。11月に再開された流改懇では、妥結率が70%を超えたことが一応評価されたが、残された30%の未妥結先との経済合理性のある価格による年内妥結が求められた。

 また、全品総価取引に単価交渉が行われる除外品が設けられたことも一定の評価を得たが、その具体的内容は詳らかにされなかった。競合品のない新薬が、全品総価取引に相変わらず入っている可能性が高いと指摘されている。価値に見合った価格が形成されなければ、メーカーが提案している薬価維持特例制度も、その狙いは達成され難い。

 他方、一次売差は、年度を終えなければ数値が判明しないため、議論は先送りされた。ただ、上場卸企業の中間決算結果から推し測れば、厳しい状態であろう。その原因は、年度当初の仕切価交渉の不十分性や医療機関等の厳しい交渉姿勢もさることながら、シェア競争の影響が大きいと言われる。

 「緊急提言に取り組む卸業界の動きを、シェア拡大のチャンスとして受け止めたのではないか」「期末の利益補填的なアローアンスを期待した、経済合理性のない価格提供ではないか」と訝る声がある一方で、「自由な市場競争」が展開されている証であるとの声もある。

 しかし、公的医療保険制度の下での医薬品取引は、市場原理主義的な自由放任ではあり得ないというのが、緊急提言の精神であった。市場参加者の自律に委ねるだけではなく、公益的観点からの「監視」が「国の役割」として明記されたのだ。昨年の流改懇緊急提言報告に対する中央社会保険医療協議会前会長の苛立ちに満ちた発言を待つまでもなく、事態の展開如何によっては、欧州に見られるような公定マージン制等の規制導入案も考えられ得る。

 卸もメーカーも、規制強化は望むところではないだろう。メーカーが提案している薬価維持特例制度は、流通改革と表裏一体の関係にある。メーカーと卸は目指すべき医薬品流通について共通認識を持ち、互いに相手が期待する行動を遂行しなければ、共に果実を得ることはできないと思われる。

 最終段階に入ったと目されていた卸業界地図が塗り変わるような再編・合併の動きが、秋以降連続して報道された。公正取引委員会の独禁法上の審査があるにしても、流れは止まらないだろう。医薬品流通の質的充実をもたらすような今後の展開を期待したい。

 また、新型インフルエンザの脅威は、卸の社会的役割をクローズアップした。最大死者64万人と被害想定される新型インフルエンザのパンデミックにおいても、医療の円滑な継続のために、メーカー・卸には医薬品の安定供給が求められる。

 11月には卸業界として、新型インフルエンザ対策ガイドラインを作成し、これを踏まえ、各卸企業は事業継続計画(BCP)の速やかな策定を図ることとした。この面でも、メーカーと卸の共同戦線の確立が求められている。

 来年6月の改正薬事法施行により、卸売販売業は薬事法上に独立して位置付けられると共に、適切な管理運営方法の設定が義務化される予定である。かねてから自主規範として掲げられていた卸業界のJGSP(医薬品適正供給規則)に、法的意味が与えられることになるわけであり、これまで以上に事業の適正運営が望まれる。

 医薬品流通をめぐる今年の一連の動きは、卸企業に課せられた社会的責務を、より一層的確に果たすための試練であり、また手がかりとして考えなくてはならないだろう。基本的なあり様を問われている医薬品流通は、岐路に立っている。歩むべき道の誤りなきを期したい。



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