オバマ氏の米国大統領就任により、米国の医薬品市場の今後の動向が注目されている。まだ、具体的な医療改革案は示されていないものの、全ての米国人を対象にした安価で高品質な医療を提供する国民皆保険制度構築の発想が、その根底にあるようだ。
オバマ氏のこれまでの発言からすると、医療保険の非加入者減少や児童の健康保険加入の義務づけ、企業による雇用者提供型保険の促進・支援を、加速する政策を推し進めるのは間違いないだろう。
その一方で、財源確保のために、ジェネリック薬のさらなる促進や、高齢者向け処方せんの医薬品価格を、政府が製薬企業と直接交渉できる制度の確立を目指すものと予測される。また、同種の医薬品が米国よりもカナダの方が安価な場合、カナダからの輸入を承認する政策も提案されるようだ。
米国では、ブッシュ前政権下での医薬品企業への保護政策により、同じ医薬品でも種類によってはカナダで買う方が、米国よりも30050%も安くなるケースが稀ではないという。実際、安価な医薬品を求めて、カナダで医薬品を買うツアーもあると聞く。
これらオバマ新大統領が掲げるであろう医療改革案が、医薬品業界に与える影響を考えた場合、まず、医療保険加入者の増加により、医薬品の使用量が増加するのは間違いないだろう。
だが、その反面、ジェネリック薬使用のさらなる促進や、医薬品の価格決定への政府関与の強化などにより、総合的には新薬メーカーにとって厳しい局面を迎えるものと思われる。「100年に一度の経済危機」が叫ばれる昨今において、受診率の低下が負のスパイラルとなり、厳しさにさらなる拍車をかける可能性も否定できない。
このような米国の医薬品市場の見通しを考慮した上で、庄田隆日本製薬工業協会会長は、「日本の製薬企業は、成長を目指して米国事業を強化する方向性は変わらないと思う」との見解を示している。すなわち、いくら厳しい環境下でも、世界最大の医薬品市場である米国での事業強化なくして、日本企業の成長はあり得ないということだ。
では、わが国の先発メーカーはどのような生き残り策が考えられるのか。癌やアルツハイマーなどのアンメットメディカルニーズを満たす新しい医薬品創出の必要性については、改めて論じる必要はないだろう。
ただ、創薬環境の厳しい中で新薬を創出するには、とかく目線がアライアンスに向きがちであるが、自社の創薬能力の向上が新薬メーカーの生命線となることを改めて肝に銘じておかねばなるまい。
また、アンメットメディカルニーズの医薬品の創出だけではなく、支持療法に役立つ新薬の研究も推進する必要があるのではないか。例えば、抗癌剤の副作用による吐き気や筋力の低下、血小板の減少を改善して、既存の抗癌剤の有用性を最大に引き出して治療を継続するための新薬が、医療現場から強く要望されているからだ。
その一方で、たとえパテント切れの薬剤であっても、多くの潜在患者が存在するならば、その患者の顕在化を図ることも、先発メーカーにとっては重要な使命の一つになるだろう。医療現場のニーズに合致した新薬の開発やMR活動が、今後の先発メーカーの生き残り策の大きなポイントになると考えられる。