ストレンガー社長
アレクシオンファーマは、希少疾患の発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)治療薬「エクリズマブ」の発売で日本市場に参入する。3月31日にエクリズマブの国内申請を行った同社は、2010年6月の発売を目指し、日本での活動を本格化させている。代表取締役社長のヘルマン・ストレンガー氏は、本紙の取材に対し、「7~8月頃から潜在的なPNH患者の掘り起こしをスタートさせ、発売開始2年後には、200人のPNH患者にエクリズマブを届けたい」との方針を明らかにした。今後、エクリズマブの専門性に対応できるサイエンスレベルの高い人材を採用し、PNH患者中心の組織作りに全力を挙げていく考えだ。
PNHは、慢性的に赤血球が破壊される血管内溶血を特徴とする稀な血液疾患で、国内の推定患者は約430人とされている。エクリズマブは、血管内溶血を引き起こすC5補体蛋白に対するヒト化モノクローナル抗体で、PNH患者の血管内溶血を防止する。
現在、PNHに有効な治療法がないため、エクリズマブは唯一の治療薬として、患者からの期待も高い。既に海外では、米国で07年3月、欧州では07年6月に承認を受け、「ソリリス」の製品名で世界14カ国で販売されている。国内では、昨年12月に希少疾病用医薬品に指定されていた。
さらに現在、エクリズマブの適応拡大として、患者数が100万人に1~2人とされる希少な血液疾患の非典型的溶血性尿毒症症候群(aHUS)、aHUSに伴う腎移植後拒絶反応の抑制を対象に、国際共同治験の準備が進行中で、ストレンガー氏は「日本から1例でも国際共同治験に参加したい」と意欲を示している。
日本市場への参入について、ストレンガー氏は「国内のパートナー企業を通じて販売する選択肢もあったが、PNHはウルトラオーファンと呼ばれる非常に稀な疾患で競合がないため、少人数でも自分たちで開発、販売を行える可能性が高いと判断した」と理由を語る。また、アレクシオンのコア技術である補体の研究について、日本人研究者が世界的にリードしていたという科学的な背景も後押ししたようだ。
サイエンス重視の体制構築へ
今後、エクリズマブの発売を視野に、販売体制の構築が急務となっているが、ストレンガー氏は「非常に専門的な製品なので、サイエンスレベルの高い人材を採用し、本当に患者さんをフォローできる組織を作りたい」との意向を示す。現在、社員数は13人だが、年内には30人以上に増員する計画だ。
実際、エクリズマブの発売に当たっては、PNH患者へのフォローを最も重視している。「MRという名称を使いたくない」とストレンガー氏。医師にエクリズマブの適切な使い方を伝え、一人ひとりのPNH患者のコンプライアンスをフォローする。こうした取り組みが欠かせないエクリズマブの販売活動に対し、高いサイエンスレベルを求めるのは、通常のMRでは対応が難しいという判断からくるものだ。
その上で、ストレンガー氏は「いかにエクリズマブを使ってもらえるかがポイントになる」と課題を指摘。「PNHの啓発活動を進め、潜在的な患者さんを掘り起こしていくこともわれわれの大きなミッションの一つだ」と位置づける。7~8月頃からエクリズマブの発売に先行する形で、PNHの疾患啓発活動をスタートさせたい考えだ。
エクリズマブは、アンメットメディカルニーズが非常に高く、患者からの期待も大きい製品だけに、同社は具体的な売上目標に重きを置いていない。むしろ、PNHの国内推定患者が約430人とされる中、「発売から2年後には200人のPNH患者に届けたい」との目標を掲げる。そのために今後、サイエンスをキーワードに、エクリズマブの承認取得、発売へ向けた準備を全力で進めていく方針だ。