
患者からの署名を前に語る根本氏
改正薬事法による一般用医薬品の新たな販売制度をめぐっては、インターネットによる販売の可否が検討中だが、今回の省令では郵便による販売も同様の規制対象となっている。郵送により医薬品を届けている薬局では、高齢者の患者(顧客)を抱えているケースが多く、一部の薬剤師有志らが今年2月、郵便規制によって起こる患者の不利益を憂慮し、郵送販売の継続を求める会を設立した。現在、厚生労働省など関係方面へ要望を行っているが、会に賛同する薬局・薬店は発足して2カ月弱ながらも、全都道府県から600軒を超え、利用患者からの署名も既に2万人を超えるなど、その必要性を訴える声が高まっている。
東京大田区で漢方相談「平和堂薬局」を経営する根本幸夫氏が中心となり、「漢方薬など医薬品の郵送販売継続を守る会」(以下「守る会」)が2月22日に設立された。同薬局では全国に約1万人の患者を抱え、その4割が電話注文による通信販売という。しかし特徴的なのは、初回は必ず来店してもらい、患者から詳細に症状を聞き、何十にもわたる細かな項目が設けられた「相談カード」を作成し、その時の患者に合った漢方薬を調合する。
その後、遠方の患者や、足腰が痛いなどで来局できない患者からの電話に、薬剤師が現在の状態を細かに聞きながら、その時の症状に合わせた薬を調合する。根本氏は「薬剤師が電話で対面販売にも劣らない対応をしている。ネット販売と、こうした相談薬局の対応は違う。薬剤師を信用してもらわないと困る」として、「守る会」を立ち上げた。
守る会が一貫して主張するのが、患者の不利益という点。『医薬品(漢方薬等)が郵送できないことによって、継続的な医薬品の服用が途切れ、健康被害・病状悪化を来す可能性がある』『自分の病状・体調を詳しく分かってくれている薬局、信頼できるかかりつけ薬局で薬を買いたいという要望が、余儀なく断ち切られる』と訴えている。
根本氏は「高齢者でネットを使用できる人は極めて少ないはず。高齢者にとって、ライフラインである電話による医薬品の郵送は、必須手段。高齢化社会を迎えるに当たって、その重要度はますます増大すると思う」と話す。
漢方薬局だけでなく、一般の薬局でも郵送を行っているケースは多い。今回の新販売制度導入で、郵送販売が制限されることを初めて聞いた薬局も多いようで、守る会に賛同する薬局・薬店が日を追うごとに増加しているという。賛同する店の患者からFAX等で送られてくる署名も、3万に近づきつつあるようだ。
署名は、ネット販売も利用したことがない、単なる一般の人たちに賛否を聞いているのではなく、実際に薬局を利用している患者たちの声であることが特徴。署名には意見欄も設けているが、制度が変わることを初めて知った利用者から、「これまでと同様の方法を継続してほしい」「本当に困るので、何とかしてほしい」など、様々な意見が寄せられている。
根本氏は「今後、数年後には4人に1人が、1人暮らしの高齢者になるとも言われているが、その人たちはネットもできない。うち(平和堂薬局)では最初から面談し、状態を聞いてからやっているが、電話という手段でも、薬剤師という立場を信用してもらって、きちんと記録を取っていればいいのではと思う。そうした薬剤師の役割も、厚労省に訴えた」という。
さらに、「どちらかというと漢方薬局の人たちは、あまり目立つ行動はしてこなかった。政治活動もやったことがないし、薬剤師会の会合に出て行くことも少ないような連中が、今回は一気に立ち上がったということ。もちろん、日本薬剤師会にも要望はしている。一般の患者さんたちが、どういう気持ちを持っているかを拾い上げるのが、政治・行政のやさしさだと思っている。財源に関わる部分は仕方がないにしろ、自分の健康を守るために、自費で薬局を利用している人を困らせるのは、これまで信頼関係を築いてきた薬局としても苦しい。いい形で決着するまで、要望し続けなければと思っている」という。
守る会では、今後も「薬剤師、登録販売者と患者との間で、電話によるコミュニケーションが取れる場合には、6月からも引き続き、漢方薬などの医薬品の郵送販売ができるようにしてもらいたい」と、引き続き関係方面に訴えると共に、「賛同してくれる薬局・薬店も1000までは集めたい」としている。
守る会の連絡先(平和堂薬局内)は、電話03・3723・5938、FAX03・3725・9601。