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【日本薬学会第143年会】奨励賞受賞研究 理論計算を基軸とした天然物の生合成機構研究

2023年03月23日 (木)

山梨大学大学院総合研究部特任助教 佐藤 玄

佐藤玄氏

 『天然物』は、微生物や動植物の持つ生合成のダイナミズムが作り出す多彩な化学構造と機能を持つ有機分子群の総称である。

 多種多様な天然物の骨格は、これまで創薬のシーズとして多くの医薬品や農薬を生み出してきた。天然物の多様な構造は、酵素内部での複雑な多段階連続反応によって生合成される。多段階にわたる連続反応を、緻密に、正確に、短時間で、効率的に行う。

 このことは、「反応性が高く」「超短寿命で」「手に取り出せない」中間体や遷移状態が数多く含まれることと同義であり、単離・構造決定や生合成機構の全貌解明が極めて難しいことを示唆している。天然物の巧みな『ものづくり』の仕組みを解き明かし、目的に応じた改変が実現できれば、有機化学・天然物化学における学理・学術的な成果としてはもちろん、新奇天然物の創出に強力なツールをもたらすに違いない。

 一般に、実験化学では、生合成機構を明らかにするために、同位体標識化合物のトレーサー実験を行ったり、生合成の各段階を触媒する酵素を単離精製してその性状を調べたり、あるいは速度論的な実験を行ったりする。

 しかしながら、実験的手法では、遷移構造を直接「見る」ことはできない。唯一、その姿を直接「見る」ことができる方法が『理論化学・計算化学』である。筆者は、理論化学・計算化学的手法を基盤として、未解明生合成経路の全容解明ならびに合成生物学的手法との協奏による新奇天然物の創出を目指している。

 これまでに、テルペン系天然物の多様な骨格形成の仕組みをついて明らかにしてきた。さらに、天然物の「仕上げ」を担う酸化酵素の反応機構解析にも取り組み、天然物の構造多様性の起源にも迫ってきた。

 これまでの計算化学により得られた研究成果をもとにして、今後は望みの構造を持つ天然物を創り出す人工酵素設計に着手し、「探す」から「創り出す」天然物の生合成研究に邁進していきたいと考えている。



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