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【日本薬学会第143年会】新たにジュニア会員創設へ‐日本薬学会次期会頭 岩渕 好治氏に聞く

2023年03月23日 (木)

学生と研究者の交流深める

岩渕好治氏

 日本薬学会の2023~24年度の会頭に岩渕好治氏(東北大学大学院薬学研究科教授)が就任する。学会誌の国際的な評価が高まる良い傾向が見られる一方、会員数や大学院博士課程の進学者減少という大きな問題を抱える。こうした中、新たに薬学部1年生から入会できる「ジュニア会員」の創設や若手研究者と学生の交流を深めることにより、会員数の減少に歯止めをかけたい考え。日本の創薬研究を活性化させるため、薬学以外の研究者との情報交換を進め、薬学会を創薬に関わる情報発信のプラットフォームと位置づける構想もある。新会頭としてどのような舵取りをしていくのか、岩渕次期会頭に聞いた。


 ――就任に当たっての抱負を。

 まず、これまで高倉会頭、佐々木会頭が打ち出してきた様々な改革の方向性を継承し、現状をしっかり把握した上で薬学会としての対応を考えていきたい。実際に、学術誌の「ケミカル・アンド・ファーマシューティカル・ブレティン」(CPB)、「バイオロジカル・アンド・ファーマシューティカル・ブレティン」(BPB)に関しては良い傾向が出てきている。オンライン化に加え、CPBとBPBに掲載された内容を会員にニュースレターとして送信しており、かなり便利になったと感じてもらえているのではないかと思う。

 また、薬学会は学術団体のため、インパクトファクターも重要である。学術誌のCPB、BPBが発信する学術情報について、インパクトファクターに見合った内容と満足していただけるようなプラットフォームを構築し、学術誌の評価を通じて薬学会のプレゼンスを会員に伝えていきたい。これまでも学術誌の評価を高める取り組みが進められ、その効果が見え始めているので、さらに強化していきたいと考えている。

 もう一つの課題は、大学院博士課程に進学する学生の減少だ。既に薬学会では、15年から「長井記念薬学研究奨励支援事業」を打ち出していて、奨励金を受けた学生が博士号を取得し、社会で活躍する人材が出始めている。昨年からは「長井記念若手薬学研究者賞」を創設し、薬学研究の発展に強い意志を持った若手研究者を表彰している。

 昨年の第142年会では、オンラインではあったものの、長井記念薬学研究奨励支援シンポジウムが企画された。奨励金を受けて学位を取得し、現在活躍している研究者から、事業の採用によって研究に対する取り組みがどう変化したのか、どのような研究を行ったのかなどを振り返っていただき、今後応募する学生へのメッセージを送ってもらった。

 その中で、「学生時代にロールモデルとなる薬学会の薬学研究者とつながりを持つことができれば良かった」との声があった。現在、薬学教育委員会でも受賞した若手研究者と学生が交流できるワークショップの開催を始めており、こういった若手研究者をエンカレッジする取り組みを薬学会として積極的に打ち出していきたい。

会員数増加は大きな課題

 ――会員減少への対応は。

 会員の増加は大きな課題であり、会員であることのメリットをもっと分かりやすくしようと考えている。会員向けの情報発信力を上げる取り組みとしてホームページの大改修を行う予定である。これまでは薬学会からの情報発信が中心だったが、ユーザー目線で情報検索してもらえるような有益な情報が得られるように見直したい。

 薬学会の会員になって良かったと思えることが大事だ。例えば、納めた会費が長井記念薬学研究奨励支援事業のような公益性のある事業に捻出されているとか、その使い道を理解していただけるようにしていきたい。

 新たな取り組みとして、薬学部1年生から入会できる「ジュニア会員」の創設を計画している。会費は1000円を予定し、薬学部の学生となった時点で薬学会に入会してもらいたいと考えている。会誌「ファルマシア」の閲覧などによって様々な情報が入手できることを実感してもらい、学生に早い段階から薬学の魅力を伝えていくことで若手を取り込んでいきたい。

 ――学術誌のインパクトファクターが上がってきている。

 あともう一押しだと思う。21年の最新のインパクトファクターはBPBが2.264、CPBが1.903と公表された。

 薬学会の学術レベルは相当に高いと思う。インパクトファクターは年々上昇しており、先代からの努力が数字となって現れていると感じる。やはり、学会の求心力は学術誌の評価が高いことではないか。私はそこが心臓部だと思っている。

 ――若手研究者育成の取り組みについては。

 まず、頑張った研究者を表彰して、さらに活躍している若手研究者賞の受賞者と学生の交流の場を作り、先輩の背中を追うような次の研究者が輩出されるような仕組みを作りたい。

 薬学会年会やシンポジウムは研究者にとって一つの舞台である。その舞台の上で日頃の研究成果を発表し、いろんな意見や反響を聞くことにより、もっと研究を頑張ろうという気持ちになるはずだ。

 その意味では、若手薬学研究者賞を励みにしてもらいたいし、ジュニア会員の学生にはシンポジウムの参加などを通じて、研究者というものを理解してもらえれば、これまでの薬学会の活動と違った人々にアピールできるのではないかと期待している。

他領域にも情報発信

 ――薬学会として日本の創薬研究にどう役割を果たしていくか。

 創薬モダリティが多様化する中で、日本の製薬企業も健闘しているが、一企業ではなかなか全てに対応できず、日本全体の創薬力を上げる必要がある。そうなると、大学や研究機関と企業の連携になってくるが、われわれアカデミアの立場からも創薬を意識した研究を行う機関が増えていると感じる。私自身が参加している日本医療研究開発機構(AMED)の生命科学・創薬研究支援基盤事業(BINDS)には、必ずしも薬学だけではなく、工学、医学などの様々な領域の研究者が創薬に携わっている。

 こうした他領域の研究者が情報交換できる場に薬学会がなればと思っている。薬学の研究者をはじめ、日本全体の創薬に関わる情報を他領域の研究者、製薬企業、化学系企業などに対してうまく発信していけるような仕組みを考えていきたい。

 ――薬学会としても様々な研究分野との接点が必要になっていると。

 そう思う。物質から始まって生命にアプローチするのが薬学の伝統的な研究スタイルだが、医学部で進んでいる細胞治療や遺伝子治療といった新たなモダリティに対しては、薬学も連携して取り込んでいかなければならないだろう。

 ――国際化についての取り組みは。

 今回、札幌で開催する第143年会で次世代薬学アジアシンポジウムが企画されている。台湾、タイ、マレーシアから研究者と学生を招いて発表してもらうが、アジアは発展著しく、時差もほとんどない。アジアのハブとなることを、薬学会の国際化のキーワードとしていきたい。

 ――最後にメッセージを。

 私は薬学会の会員であることに誇りを持ち、様々な活動をする中で薬学会に育ててもらったと思っている。今回、会頭に就任するに当たって日本の薬学の祖である長井長義先生のお墓参りに行ってきた。長井先生が約140年前に薬学の重要さに気づき、何もないところから薬学会を立ち上げて今がある。

 そういった長井先生が薬学研究の土壌を作られてきた原点、つまり薬学がどうやって始まったのかを思い描きながら、予測不可能な時代に対応するため、何かを切り拓かなければならない。

 そこを薬学研究者として、薬学会会員としてどう取り組むかだと思う。未知の領域に立ち入った時、先駆者に思いを馳せ、ぜひ勇気を持って自身の研究を進めてほしい。そういう心境で薬学会を発展させていきたいと思っている。



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