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【日本薬学会第143年会】ファーマサイエンスつながる・つきぬける‐25~28日、北海道大学で開催

2023年03月23日 (木)
右下から時計回りに南組織委員長、市川総務委員長、脇本広報委員長、山田総務副委員長

右下から時計回りに南組織委員長、市川総務委員長、脇本広報委員長、山田総務副委員長

 日本薬学会第143年会が25~28の4日間、「ファーマサイエンス:つながる・つきぬける」をテーマに、札幌市の北海道大学とオンラインのハイブリッド形式で開かれる。4年ぶりの現地開催となる今年会では、物理系、化学系、生物系、医療系など幅広い学問分野からなる薬学の強みを生かし、各分野の研究者が“つながる”ことによって、新たな創薬へのブレークスルーを目指す狙いが込められている。目玉企画としては、特別講演とシンポジウムで構成する領域融合セッションを設定した。抗体医薬・免疫など三つのテーマについて、ポスター発表も含めて1カ所で展開することにより、同じ会場で一流の研究者と若手研究者が交流する機会にしたい考えだ。さらに、新たな試みとして「次世代薬学アジアシンポジウム」を企画し、マレーシア、台湾、タイから教員と学生を招聘。日本とアジアの研究者が様々なテーマの最前線を議論し、国際交流の呼び水となることが期待されている。懇親会も開催予定で、久しぶりに各分野の研究者が一堂に会して交流する機会となりそうだ。そこで、組織委員長の南雅文氏(北海道大学大学院薬学研究院薬理学研究室教授)、総務委員長の市川聡氏(北海道大学大学院薬学研究院有機合成医薬学部門教授)、広報委員長の脇本敏幸氏(北海道大学大学院薬学研究院天然物化学研究室教授)、総務副委員長の山田勇磨氏(北海道大学大学院薬学研究院薬剤分子設計学研究室准教授)に、年会の見どころなどを聞いた。

4年ぶり現地で“つながる”‐新たな創薬への突破口に

 ――4年ぶりに現地で開催される日本薬学会143年会のテーマ「ファーマサイエンス:つながる・つきぬける」に込められた思いや年会のコンセプトについて、南組織委員長からお話しいただけますでしょうか。

  新型コロナウイルス感染症の影響により、これまでの学会ではオンラインの発表がほとんどで、3年間リアルで開催される学会に参加したことがない学生も多いと思います。今回の年会は新型コロナの感染に配慮しつつ、リアルで発表する場を提供したいと考え、ハイブリッド形式での開催を決めました。

メイン会場となる高等教育推進機構

メイン会場となる高等教育推進機構

 学生のみならず、われわれ教員も人事交流や新しい教員の確保など、直接会って話をしなければならないような重要なことがたくさんあります。ウェブでしか会ったことがない先生とはなかなかそういう話もできず、この4年ぐらい大学では、助教をはじめとした人材を確保することも難しくなってきているようです。

 こうした中で、薬学会年会を現地で開催することには意味があると思いますし、今回のテーマに掲げた「つながる」ことを通じて研究のブレークスルーを目指さなければいけません。特に薬学会は、物理系、化学系、生物系、医療系など様々な学問分野からなる総合科学です。普段、それぞれの研究者は専門学会に参加してほとんど交流がありませんが、薬学会年会は多分野、多領域の研究者が一堂に会する貴重な機会ですので、現地で開催することが非常に有意義だと思っています。

 テーマにある「ファーマサイエンス」は、学会としてサイエンスを強く追求しなければいけないと考え設定しました。北海道大学では薬学をファーマサイエンスと呼称し、これまでファーマサイエンスフォーラムを開催するなど、サイエンスを強調する取り組みを行ってきました。

 今回の年会は、北大が主催校であることから、われわれが取り組んできたファーマサイエンスをテーマに打ち出し、北大らしさを出しながら薬学の多くの研究者がつながって、サイエンスによってつきぬけたいという想いを込めました。

3テーマの領域融合セッション

 ――プログラム編成の特徴などについてお話しいただけますか。

  今回、特徴的なプログラムとして、特別講演とシンポジウムで構成する領域融合セッションの企画を設定しました。領域融合的な研究を推進するため、組織委員会が「痛み・痒みに関わる受容体・チャネル・酵素」「抗体医薬・免疫」「核酸・DDS・ワクチン」の三つのテーマを設定し、特別講演者とテーマに関連したシンポジウム講演者を薬学会の各部会からの推薦を参考に選びました。

 関連するポスター発表も同じ会場で行い、特別講演からシンポジウム、ポスター発表までが1カ所で聞くことができる、異なる領域の一線級の研究者や学生がつながることを考えたセッションとなっています。年会では、領域融合セッションを目玉企画にしたいと思っています。

 特別講演の演者には、領域融合セッションに1日参加してほしいとお願いしています。同じ会場のポスター発表に一流の研究者に来てもらい、若手研究者に質問したり、交流ができる機会にしたいと考えています。

 例えば、痛み・痒みに関わる受容体・チャネル・酵素のテーマで、「カプサイシン受容体TRPV1の発見から25年―温度感受性TRPチャネル研究の現在と未来」をテーマに特別講演する生理学研究所の富永真琴先生は、カプサイシン受容体の研究では日本でトップの研究者です。そういう一流の研究者がポスター会場に来て、話したり、質問してくれたりすることは若手研究者にとって良い経験になるのではないかと期待しています。

 抗体医薬・免疫のテーマでは、特別講演で免疫学の世界的権威である大阪大学の審良静男先生に「炎症・免疫・代謝を制御するエンドリボヌクレアーゼRegnase-1」、癌の“第5の治療法”とも言われる光免疫療法を手がける米国国立がん研究所(NIH)の小林久隆先生に「がんの近赤外光線免疫療法(光免疫療法)」と題してご講演いただくほか、シンポジウムでは、製薬企業から抗体薬物複合体(ADC)の開発に注力する第一三共、免疫チェックポイント阻害剤「オプジーボ」の開発で有名な小野薬品からもご参加いただき、レギュラトリーサイエンスの話題も含めて融合した形のセッションにしたいと考えています。

 核酸・DDS・ワクチンのテーマは、新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえたものです。だいぶコロナの感染状況も落ち着いてきましたが、コロナワクチン・治療薬の開発において、なぜ日本が後塵を拝したのか、一度しっかり議論しておく必要があると思います。

 もう一つ、国際交流をさらに促進していくため、薬学会理事会企画として「次世代薬学アジアシンポジウム」を新たに行うことも特徴です。3時間のシンポジウムを4枠設けており、マレーシア、台湾、タイから教員と学生を招聘し、日本とアジアの研究者が様々なテーマの薬学研究の最前線を議論し、交流を深めていきたいと思っています。

 将来的には、アジアの学生が一般演題を発表してくれるような場を作るため、まず教員と学生を呼んで一緒に議論しようという試みです。実際、今回は英語での発表が多く、日本人は留学生を含めて108人、海外からの発表も89人となっています。そのうちアジアからが74人とほとんどを占め、台湾からは台湾医学大学(TMU)の21人を含めて48人と最も多く、タイが12人、マレーシア4人、韓国3人、中国3人、インドネシア3人、フィリピン1人となっています。

 英語での発表は、特別講演者だけではく、一般演題や領域融合セッションのポスター発表を行う学生も参加してくれることになっており、薬学会として次世代薬学アジアシンポジウムが呼び水となって、アジアとの交流に向けた大きな一歩を踏み出す機会になればと期待しています。

 日本薬学会とカナダ薬学会とのPSJ/CSPSジョイントシンポジウム「薬学領域における分子イメージングの活用」も北大大学院薬学研究院と共催で開催します。カナダからも学生の参加があり、ポスターセッションも含めて発表していただきます。

 もう一つ、組織委員会の企画シンポジウムとして、「環境汚染研究の最先端:SDGs研究の発信」を、北大大学院薬学研究院・獣医学研究院と共催で行います。北大はSDGsに力を入れていることもあり、東京農工大学の高田秀重先生による特別講演「マイクロプラスチックを介したヒトへの化学物質曝露」を基調講演として、シンポジウムではプラスチックによって環境や生物がどのように汚染されているのかについて、海洋汚染や土壌汚染に関わる薬学的な視点からの研究が紹介されることになっています。

一般シンポは62題全て採択‐懇親会で久しぶりの交流も

 ――一般シンポジウムについてはいかがですか。

  今回、一般シンポジウムについては62題と多くの公募をいただきましたが、4年ぶりの現地開催ということも踏まえて全て採択しました。大学で開催するメリットとして講義室の豊富さが挙げられますが、追加で講義室を確保することでシンポジウムを全て行うことにしました。

 山田 これまでは55題以内が多かったようですが、今回は領域融合シンポジウムや次世代薬学アジアシンポジウム、企画シンポジウムを含めると80題近いシンポジウムが組まれており、例年の年会よりも充実した内容になっていると思います。

 ――一般学術発表についてはいかがですか。

  一般学術発表は3661題の応募をいただきました。こちらも予想よりも500題ほど多くの演題の応募がありましたので、午前と午後の2回を予定していたポスターの貼り替えを、急きょ午後にもう1回貼り替えて3回発表できるようにしました。

 今までコロナ禍で学生が発表する機会がなかったため、「希望する学生には発表させてあげたい」と考える教員も多いでしょうし、ハイブリッド形式のため現地に来なくても発表できることもあり、非常に多くの応募があったのではないかと思います。

 ――今回の年会では懇親会も予定されています。

  先ほどお話ししたように、薬学会年会は普段なかなか会えない多分野の研究者と交流できる機会です。そういう意味で、もちろん感染対策は十分に行いつつ、懇親会はぜひ行いたいと考えています。

 場所は京王プラザホテル札幌で、事前登録参加者に限定して着席にて開催する予定です。座席は自由席で途中の席移動もできるので、久しぶりの交流を深める機会にしていただければと思います。

学部4年生以下の積極参加を

 ――参加の見込みについて。

ポスター会場となる体育館

ポスター会場となる体育館

  最終的に非会員や特別講演者なども含めて7500人程度を予定していましたが、既に事前登録申し込みが7616人(8日時点)となっています。オンラインとのハイブリッド形式ではありますが、ほとんどの参加者が札幌に来ていただけると期待しています。

 また今回は、学部4年生以下で発表を行わない学生は無料で参加できることにしました。まず4年生以下に薬学会を経験してもらいたいと思っていますし、特に北大をはじめ北海道科学大学、北海道医療大学の道内3大学の4年生以下の学生にとっては、無料で学会に参加して勉強できるチャンスでもあるので、積極的に参加していただくよう学部長にお願いしているところです。

 もちろん、道外の4年生以下の学生も無料なので、最終的に4年生以下の学生で500人程度の参加があると思っています。

 ――北海道大学キャンパス内の移動についてはいかがですか。

 脇本 会場は北大の全キャンパスを使って行います。1カ所で開催できるメリットは大きく、特に北大は札幌駅から徒歩7分程度と立地も良いですが、大学構内が広大なためシャトルバスを運行します。札幌駅からすぐの正門近くの学術交流会館から薬学部を経由して、北側の高等教育推進機構まで運行します。

 山田 11年前に開催した132年会よりも会場数も増えており、小さい講義室まで参加者で溢れるような事態はないと思います。以前はなかった医学部学友会館「フラテ」、フロンティア応用科学研究棟の2会場が加わり、さらに保健科学院と薬学部も使用することにしたため、1会場当たりの収容人数も増えています。

 ――その他トピックスについてはいかがですか。

 市川 年会前日の25日には、市民向けに「がんはどこまで予防できるのか」と題して、北海道医療大学学長で北海道大学名誉教授の浅香正博先生にご講演いただきます。ヘリコバクターピロリ菌研究の第一人者である浅香先生から、胃癌をはじめ癌の予防について興味深いお話が聞けると思います。土曜日の午後2時から学術交流会館の講堂で行いますので、多くのご参加を期待したいです。

 ――参加者へのメッセージをお願いします。

  4年ぶりの現地開催となる今回の年会では、まずテーマにも掲げたファーマサイエンスを楽しみに参加していただきたいですし、久しぶりの北海道での開催となりますので、ぜひ現地にお越しいただいてサイエンスと北海道を楽しんでいただければと思います。

 また年会開催に当たっては、北海道科学大、北海道医療大の教員やアルバイトの学生にもたくさんご協力いただいており、道内の3大学で力を合わせてできる限り頑張ろうと準備を進めてきましたので、ぜひ多くのご参加をお待ちしています。



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