第56回日本薬剤師会学術大会
第56回日本薬剤師会学術大会が「和の心―未来へ」をテーマに17、18日の2日間、和歌山市の和歌山県民文化会館、和歌山城ホール、和歌山県立医科大学薬学部キャンパスなど5会場で開かれる。前大会に続き今回も現地開催とウェブ開催のハイブリッド形式で実施。分科会では、未来を見据えた薬剤師の姿や、海外の薬剤師業務との比較、へき地・過疎地での薬剤師の役割、災害発生時の対応など盛りだくさんなテーマが設定されている。大会運営委員長の稲葉眞也氏(和歌山県薬剤師会会長)に、メインテーマに込めた思いや見どころなどを聞いた。
信頼獲得には行動必要
――「和の心―未来へ」というメインテーマに込めた思いは。
薬剤師が進むべき道として、対物業務から対人業務へという方向性が示されている。ここには、調剤室にとどまらず広く外へ出て行きなさい、という意味もあると受け止めている。
具体的には、薬剤師は今後、地域の医師や看護師など医療従事者との連携や、ケアマネージャーやヘルパーなど介護従事者との連携、行政担当者との連携を深めることが重要になる。地域の様々な関係者の信頼を得て、皆で仲良く医療や介護の提供に取り組むことが求められている。そんな思いを込めて「和の心」というメインテーマを設定し、そこに和歌山の「和」もかけた。
一方、単に仲良くするだけではなく、「和して同ぜず」という格言があるように、専門職として自分の意見を大切にすることも欠かせない。和にはそんな意味も込めている。
議論する時は既に過ぎた。薬剤師は信頼してもらえるように行動に移す必要がある。そんな思いから、未来へという副題をつけた。
――今回の大会の概要や特徴は。
会場は、和歌山県民文化会館、和歌山城ホール、和歌山県立医大薬学部キャンパス、ダイワロイネットホテル和歌山、ホテルアバローム紀の国の5カ所で開催する。プログラムの骨組みは基本的に例年の学術大会と変わらない。各分科会等の内容を今回のテーマに沿ったものにしようと工夫を凝らした。
現地開催に加え、ハイブリッド形式でライブ配信を行う。現地だけでなくオンラインでの参加も可能だ。ライブ配信は、特別記念講演、特別講演、会長講演、分科会、一部の共催セミナーを対象とし、一般口頭発表やポスター発表は現地発表のみとなる。
前回の宮城大会を参考に、ハイブリッド形式で開催することは当初から計画していた。本当は、一般口頭発表やポスター発表もライブで配信したかったが、経費の関係上やむなく断念した。後日のオンデマンド配信も、予算の関係で実現できなかった。
ライブ配信の費用の上乗せによって赤字が見込まれるため、参加費を見直したり、日薬からの補助金を増やしてもらったり、経費を削減したりして収支を計画した。予定通りの参加者が集まれば収支は何とかなると見込んでいる。
――開催に当たって苦労、工夫したことは何か。
和歌山県での日薬学術大会の開催は初めてになる。小規模な都市で開催に苦労するのは目に見えていたが、担当したいと数年前に手を挙げた。主要な大都市でないと学術大会を開催できないのは面白くない。全国でも最も規模が小さいといっても過言ではない和歌山県でも開催できると実証することで、他のどこの地域でも受け持つことができると思ってもらいたかった。
和歌山市内には宿泊できるホテルが少ない。JTBを通じて和歌山市や関西国際空港方面で確保できた宿泊施設の人数は約1200人分しかなかった。岸和田市や堺市、難波などで宿泊せざるを得ない人が結構な数いるだろうと考えて、タイムスケジュールを設定した。朝の開始時間を遅めに、夕方は早めに終わるようにした。
シャトルバスも運行する。JR和歌山駅、南海電車和歌山市駅、県民文化会館、和歌山城ホール、主要ホテルを結ぶ複数のルートを設定した。
――プログラムの見どころや聞きどころは。
分科会は計19題ある。未来志向という意味で分科会9は「近未来の薬剤師業務と薬剤師像を考える」をテーマに設定した。厚生労働省の「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」の構成員を務める赤池昭紀先生(和歌山県立医大薬学部教授)の基調講演のほか、太田美紀先生(厚労省医薬・生活衛生局総務課薬事企画官)らの講演がある。中央の検討会でどのような議論が行われ、どのような薬剤師の未来を描いているのかを話してもらえると期待している。
分科会2「海外の医療制度と薬剤師業務」では、米国、イギリス、ドイツ、台湾で働く薬剤師に各国での業務内容や展望を話していただく。新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、海外のように日本でも薬剤師がワクチン接種の担い手になれるかもしれない、と話題になった。実際に海外の薬剤師は、日本の薬剤師のように一包化調剤や在宅医療への関与、投薬後のフォローアップなどきめ細かい関わりをしているのか、日本と海外でどのように業務内容が異なるのか、そんな話を聞いてみたいと分科会を企画した。海外の現状を知ることは日本の薬剤師の将来を考える上で参考になる。
和歌山県には過疎地が多いことを踏まえ、分科会12「へき地・過疎地における薬剤師の役割」を企画した。また、和歌山県は南海トラフ地震によって大きな被害を受けると予想されている。分科会15「やがて来る南海トラフ巨大地震に備えて―薬剤師が果たすべき役割」では、災害発生時の対策を参加者にも考えてもらいたい。
新型コロナウイルス感染症関係として、分科会3「コロナ禍で芽生えた新たな薬剤師業務を考える」、分科会7「新型コロナウイルス感染症の類型変更以降の学校薬剤師への期待―子供たちの未来のために何ができるか」を設けた。
未来の薬剤師の業務を考える上で、分科会8「医療DXのビジョンと薬局の業務」、分科会14「デジタルメディスンの進展と薬剤師の関与」にも注目してほしい。
このほか、薬学教育、OTC、和歌山県薬が力を入れているスポーツファーマシスト等に関する分科会を企画している。ぜひ聴いてもらいたい。
――一般演題数や参加者数の見込みは。
一般口頭発表は約140題、ポスター発表は約270題で、前回大会とほぼ同程度かやや上回るくらいだ。
参加者数は、現地5000人、オンライン2000人の計7000人を目標にしている。新型コロナウイルス感染症の影響で昨年は参加を見合わせる気配も感じられたが、今年はそれが緩和され、より多くの参加者が来てくれることを祈っている。
人材教育が大きな課題
――近年の薬剤師を取り巻く状況について。
薬剤師の責任は増し、業務は確実に広がっている。国民の期待に応えられる薬剤師をどう教育するかが大きな課題になる。責任の重さを自覚しつつ、それに見合った報酬をいただけるように努めないと、優秀な人材が薬学や薬剤師を目指さなくなる。
――和歌山県に薬学部ができた影響は。
これまで薬学部のない悲哀をずっと感じていた。和歌山県立医大薬学部と連携することで、各種研修会や薬剤師のスキルアップなど様々なことが可能になると期待している。
社会人になってから学位を取る場合でも、大学が近くにあるのはメリットになる。和歌山県の薬剤師不足の緩和だけでなく、全国から優秀な学生が和歌山に来て育ち、また全国へと羽ばたいていくような薬学部になってほしい。
――最後に参加の呼びかけを。
和歌山への交通は不便で、和歌山県薬の会員数も1000人に満たないが、できるだけのおもてなしをしたい。
分科会も、将来の薬剤師像を考えられる内容にしている。現地参加がありがたいが、時間を取れない方はオンラインで参加していただければ嬉しく思う。