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【第56回日薬学術大会】薬剤師取り巻く環境変化に対応‐日本薬剤師会 山本 信夫会長に聞く

2023年09月06日 (水)

第56回日本薬剤師会学術大会

医薬品供給など課題山積

山本信夫氏

 2025年の地域包括ケアシステム構築に向け、薬剤師を取り巻く環境は大きく変化している。後発品をはじめとする医薬品供給問題、来年4月に控えるトリプル改定への対応など足下で“ヒト・モノ・カネ”をめぐる問題が山積している。日本薬剤師会の山本信夫会長に、これらの問題認識と今後の対応などを聞いた。

 ――後発品の供給問題について。

 2019年の小林化工の不祥事を発端に、連鎖反応で医薬品不足に陥った。既に3年半が経過したが、未だその改善が図られていない点は、私の理解の限界を超えている。

 現在起きている医薬品の供給不足の主たる要因は製造時のルール違反だが、その後の医薬品の供給不安は、一部の後発品メーカーによる製造不正にとどまらず、それを契機に様々な問題が絡み合って起こったものだと認識している。

 国の後発品使用推進政策は、グローバルな視点からも間違いではない。しかし、それを短兵急に進めるあまり、短期間で後発品の数量シェアが急拡大し、後発品の製造能力が市場の需要に対応できず、キャパシティを超えてしまった。承認書に記載されている製造工程から逸脱した医薬品製造が行われたことは論外として、頻回に行われている薬価改定にも大きな問題があったように思う。

 また、医療機関や薬局が市場で購入している実勢価格と公定価格の間に大きな乖離が生じることによって、その結果薬価が引き下げられ、安定供給にも影響が出ているように感じる。薬価改定で市場実勢価に基づき薬価を調整する趣旨は理解できるが、度が過ぎると好ましくない結果を起こすこととなる。

 医薬品を公定価格で、保険医療で使うという方程式を作りながら、メーカーから医療機関・薬局までの流通では自由に取引されているところに市場の歪みが生じているとの指摘も古くからされている。

 さらには、自由な取引を良いことに、過大な薬価差益を求める病院や薬局の医薬品購入方法にも問題があるだろう。

 日薬としては、後発品メーカーに対して品質が確保された医薬品を安定的に生産するよう求めたい。医薬品卸に対しては、出荷制限がかかっている医薬品の早期解除に加え、出荷する薬局や医療機関を差別的に選定して制限をかけているようなことがあれば、直ちに考え直していただきたい。

 一方で、薬局も信頼性のある後発品メーカーを評価できる能力を獲得していく必要がある。

 少し乱暴な物言いになるが、後発品メーカーの業界再編については先発品メーカーが合従連衡したように同じ動きが必要だと考えており、適正な事業規模を持ったメーカーに集約されていくのが、品質が担保された純良な医薬品を安定的に提供する上では必要ではないか。

 診療報酬の中で大きな役割を占めている薬価制度と医療制度のスキームを「ドラスティックに見直せ」とする動きも胎動しているように見える。日薬としても様々な観点から医薬品の安定供給問題の解決に向けた提言を行っていきたい。

零売は薬剤師の判断重要

 ――医薬品の販売制度に関する検討会での議論について。

 いわゆる「零売」(分割販売)行為も含めて検討会の議論を聞いていると、例えば、零売にかかる現行ルールを守らずに、その制度があたかも過剰規制であるかのように「規制が悪い」から「緩和せよ」とか「改正せよ」とする主張には違和感を超えて、不快感さえ覚える。

 そもそも、OTC医薬品の販売については、薬剤師の判断で消費者に販売するか否かを決めることが重要だと考える。一方、処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売、零売行為については、同様に薬剤師の判断に委ねられている。

 ただ、患者や地域住民の求めに応じるままに医療用医薬品を提供したり、あまつさえ薬剤師が積極的に「医師からもらえる薬が買えます」などと喧伝したりすることは論外で、薬剤師のあるべき姿とはとても思えない。

 薬剤師の判断に基づく販売であっても一定のルールは必要で、そのルールが曖昧だとか可否の対応方法があまりにも多く存在するとすれば、もう少しルールを明確にする必要があるだろう。そうした視点で見れば現行ルールをより明確にする方向での検討は理解できる。

 ただ、今回の検討会で議論となっている零売の取り扱いについて、やみくもに「法律で規制する」ことで、薬剤師が医薬品を取り扱う際に与えられている“必要な判断”を奪うことにつながりかねないのではないかという点が気がかりである。

 例えば、医師が一定期間診察を行わず、薬剤師が患者をフォローアップしながら薬物治療を進めるリフィル処方箋の場合、調剤をするのか、受診勧奨するかの判断が薬剤師に求められる。

 零売についても同様に薬剤師が判断しなくてはならないもので、販売の可否を全て規制や仕組みによって決めるものではないと思う。ルールがどうあるべきかの議論の前に、薬剤師の職能としてどうあるべきかについても考えないといけない。

 一方、ICTを活用した遠隔販売については、これからの時代には販売手法として必要だが、薬剤師が患者・消費者と対面で対応することが第一であり、対面との主従の関係で言えば従の位置づけになるとの認識だ。現段階では、現行ルールで不都合が生じた場合に補完的に遠隔販売を実施するのが望ましい。さらに今後、医療DXが進んだ場合には、患者の手元に薬が届く間に薬剤師が一貫して、どの程度薬剤に関われるかが大きな課題となるだろう。

フォローアップ業務評価を

 ――トリプル改定への対応について。

 「診療報酬・薬価」「介護報酬」「障害福祉者サービス等報酬」に加えて「子供・子育て」にかかる費用も一部社会保障費から捻出するとなると、社会保障財源をめぐって四つが重なるのは初めての経験だ。少子化対策に社会保障財源が使われる可能性も考えると、日薬だけでなく、医療関係者にとっては大変タフな改定になると想定している。

 医療・介護の同時改定の際には、何となく財源が介護の方に流れてしまう傾向があったように感じていたが、物価や人件費の急騰の影響は社会全体にかかる問題であり、医療・介護の区別なく対応していくかは大きな課題だ。また、診療報酬改定にかかる財源を、薬価から捻出することはもう限界に来ているように思う。

 薬剤師業務については、薬剤師の自己満足に陥りがちな単なる「要件の充足」ではなく、患者にとって最適な個別化された薬物治療の実現を志向する「患者フォローアップ業務」がきちんと実施できているかを評価していただきたい。

 また、処方箋に従って患者に薬を交付する調剤業務を再確認し、調剤報酬で適切に評価する必要があるのではないか。調剤報酬体系をしっかりと考える時期に来ているように思う。リフィル処方箋やポリファーマシーへの対応も重要な検討課題だが、それを目指すべき姿とするためにも、調剤報酬の体系的な見直しや評価軸の検討も必要になる。

 ――学術大会に対する期待は。

 和歌山という人口が少ない県での開催となり、和歌山県薬剤師会の稲葉会長が大変な尽力をされて準備をされている。コロナ後に初めて地域で開催される学術大会は、今後に向けた試金石となる。

 前回と同様、ハイブリッド形式で開催されるが、多くの人たちが現地に集まる会になることに期待したい。



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