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【DIA日本年会2025】日本とアジア、そして世界との絆で患者へ届ける明日のあたりまえ‐10月19~21日、東京ビッグサイトで

2025年10月09日 (木)
藤原大会長

藤原大会長

 「第22回DIA日本年会2025」が10月19~21日の3日間、東京ビッグサイトで開催される。“日本とアジア、そして世界との絆で患者へ届ける明日のあたりまえ”をテーマに、誰もが安心でき一人ひとりが健やかに生き生きと輝く日常生活を送る、そんな「明日のあたりまえ」を共に実現していくため、国内外のステークホルダーが集い医薬品開発や市販後の課題について様々なセッションで議論が展開される予定だ。目玉となるテーマの一つが「日本とアジアの連携」だ。年会大会長を務める医薬品医療機器総合機構(PMDA)の藤原康弘理事長、副大会長を務めるMSDの津森桂子氏、PMDAの宇山佳明氏に年会のテーマに込めた思いやプログラムの見どころなどを聞いた。

ドラッグロスの解消目指して‐アジアと共に開発を活性化

 ――医薬品開発をめぐってはドラッグロスが課題となっています。まずは医薬品開発・製販後をめぐる環境変化についての現状認識をお願いします。

 藤原 海外で既に承認されているが、日本で開発すらされないドラッグロスが最近の大きな課題となっており、それを踏まえてドラッグロスの解消について何ができるかを考える年会にしたいと思っています。

 ドラッグロスが起こった背景の一つとしては、日本の薬事制度について日本語のみで情報を発信してきたことが挙げられます。海外への情報発信をリアルタイムで行うことが重要であり、米国のワシントン、タイのバンコクにPMDAの現地事務所を設立して情報発信の強化を図っていますし、PMDAの取り組みをしっかりと伝えていきたいと思います。

 その一方、日本のバイオベンチャーやベンチャーキャピタルの存在感が海外に比べて希薄であることは否めません。バイオベンチャーが医薬品開発を進める上での資金調達規模は小さく、ベンチャーが育っていないことは日本の課題です。

 ドラッグロスの解消に向けて、国は希少疾患と小児用医薬品の開発にも力を入れていく方針を掲げています。PMDAも2024年7月に小児・希少疾病用医薬品等薬事相談センターを開設しており、製薬業界の人たちに活用してもらいたいと考えています。

 5月に改正医薬品医療機器等法が公布されました。DIA年会が開催される10月のタイミングは、情報提供を行うには絶好の機会と捉えています。

 薬機法の改正内容で重要なポイントと思うのは条件付き承認制度が見直されたことです。上市後に有効性が再確認されない場合については承認の取り消し条項が設けられましたが、こうした場合においても企業に上市後のデータを公表するよう求めています。失敗事例を共有し、次の医薬品開発につなげられる仕組みになった点で重要な改正と言えます。

 条件付き承認が適用された医薬品において特に重要になるのが市販後の安全対策ですが、改正薬機法により医薬品リスク管理計画(RMP)が義務化されました。これまで以上に医薬品のリスクに応じた柔軟な対応が期待されるところです。

 医薬品開発や医薬品の承認審査におけるAIの活用も重要なテーマの一つです。医薬品開発におけるAI活用について製薬企業は積極的に取り組んでいますが、デジタル庁から政府行政機関へのAIの導入に関するガイドラインが発出されたのを受け、PMDAも民間企業とは違う視点でAIをどう活用していくかを考えないといけない時期に来ていると思います。

 医薬品開発に関わるプレイヤーの頑張りもありドラッグラグ・ロス対策は徐々に進んできている一方で、医薬品開発における患者・市民参画(PPI)では日本はまだ欧米に比べて遅れています。

 必要だと思っている対策の一つに情報リテラシーの向上があり、国はもちろん、企業や患者、一般市民、メディア、医療業界など個々が責任を持ってリテラシーを向上していく意識が重要です。みんなで医療誤情報についてDIA年会で考えたいと思っており、メディアの人にも参加いただいて、市民公開講座を初開催する計画です。

 ――こうした現状認識に基づき、年会テーマ「日本とアジア、そして世界との絆で患者へ届ける明日のあたりまえ」に込めた思いは。

宇山副大会長

宇山副大会長

 藤原 PMDA理事長就任時から国際協働という視点は大事にしたいものの一つであり、その中で“アジアファースト”を掲げています。アジア地域が世界の医療発展に果たすべき役割は非常に重要であり、同じアジアの国として、アジアを視野に入れた方が良いと考え、アジアファーストという言葉を入れています。

 ただ、製薬企業の事業戦略を見ていると欧米市場に比べるとアジア市場をあまり重視していないように映り、FDAやEMAもアジアを重視しているといっても中国を強く意識しており、その他のアジア諸国のニーズを規制に取り入れようとする姿勢はあまりうかがえません。

 こうした状況を踏まえると、日本は欧米とは異なる視点で緩やかな協働体制のもと、アジアを発展させていく独自戦略が求められています。優れた薬剤を広くアジア全体に行き渡らせるための薬事規制を整備していく必要があり、日本はアジアの中で仲介役を果たせるのではないかと思います。

 今回の年会ではアジア各国の企業や規制当局などステークホルダーが集い、PMDAのアジア事務所長もセッションに参加する予定です。アジア全体で医薬品開発を活性化させるための議論が展開されるのではないかと思います。聴講した参加者の方々に対しては、アジア市場を10年後に期待される成長市場として認識してもらえることを期待しています。

全セッションでパネル討論‐演者は中国規制当局からも

 ――PMDAが大会長、副大会長を務めるのは過去の年会に比べると特徴的ですが、昨年の年会からアップデートした点は。

津森副大会長

津森副大会長

 宇山 今回のテーマである「日本とアジア、そして世界との絆で患者へ届ける明日のあたりまえ」をいかに具現化していくかを考えてプログラムを検討しました。藤原理事長が就任以来PMDA Philosophyの実現のために提唱している“4つのF(Patient First, Access First, Safety First, Asia First)”のうち、本年のDIA日本年会では、特に「アジア」「患者」といった要素を重視しながら様々な人と一緒に議論する場にします。

 中でも大事にしたいのが「fact」です。議論の前提として日本の医薬品開発や臨床試験が置かれている現状を正しく理解することが重要です。医薬品開発をめぐる課題を共有し、それを他者の責任にするのではなく「自分がやるべきことは何なのか」という視点の気づきを得られる場にしたいです。

 これまで開催された年会に比べても海外専門家に多く登壇していただきます。国内の関係者間で議論しても解決が難しいテーマについて国内外、特にアジアのステークホルダーに日本に来てもらい、日本としてアジアとして今後どうあるべきかを考えていく場を設定する予定です。

 また、市民公開講座は一般市民の皆さまにも多く参加してもらいたいと思っています。社会に氾濫している医薬品情報の実態について正しく理解してもらい、情報社会の中でどう付き合っていくか、リテラシーを高めるきっかけになればと思っています。

 全てのセッションにパネル討論の時間を設け、演者から聴講している方への一方通行ではなくフロアからも積極的に発言してもらうことで活発な議論になればよいと思います。

 ――今回のプログラムの見どころは。

 宇山 基調講演では米ボストンで多くのバイオベンチャーと接し、米バイオテク市場に詳しいベンチャーキャピタルの方に登壇していただきます。近年、バイオベンチャーやスタートアップが医薬品開発において主要な役割を果たすようになっていますが、彼らによる医薬品開発がどう意思決定されているのか、治験の実施国がどのように選ばれているのかを正しく理解した上で、日本としてやるべきことが何かを考えられる機会にできればと思います。

 2日目のダイアモンドセッションにはASEAN諸国の専門家をお招きし、アジアでの医薬品開発に関する最新の知見を共有したいと思います。日本の薬事承認制度を参照国制度の対象としているASEANの国は多く、アジア間で連携することでどんなメリットがあるか、PMDAの視点のみならずASEANの国々が抱えている課題や日本に期待することなどを意見交換し、アジア地域における連携のあるべき姿を議論します。

 スペシャルセッションではAIの活用に関して議論します。内閣官房および厚生労働省の方から日本のAIに関する規制の方向性、医薬品規制におけるAI活用のあり方などについて講演してもらうほか、企業側からもAIの活用の実際について紹介してもらう予定です。米FDAからもAIを活用する方針が示される中、日本としての取り組みの方向性を確認する場になればと思います。

 国際共同治験についてもいくつかのセッションを用意しています。日本と欧米という関係にとどまらず、日本とアジアという関係性で実施する治験が一つの国際共同治験の中で構成され、グローバルで効率的な医薬品開発を進めながら、より多くの国に新薬をお届けするスキームのあり方について議論できればと思っています。また、アジアでの大きな市場となっている中国にも着目し、中国の規制当局からも演者をお招きする予定で、中国の規制に関する最新状況を理解しながら、アジアの医薬品開発において日中が果たすべき役割なども検討できればと考えています。

 さらに、本年は、過去に開催していたPMDAタウンホールを復活させる予定です。製薬業界等をはじめとする参加者の方々からPMDAに対するご質問をお伺いすると共に、PMDAの考え方についてしっかりと伝えることで相互理解を高める機会にしたいと思っています。

 様々なテーマを用意していますが、「自分ごととして考える」というのが共通したコンセプトになっています。欧米の医薬品開発動向を注視するのは大事ですが、欧米で承認された薬をそれ以外の国で開発していく“欧米の二番煎じ”ではいけない。アジア諸国との協働を通じてより多くの薬を迅速にアジアの患者に届けていく。そのためにわれわれができていることは何かを考えていく年会にしたいと考えています。

AIでスペシャルセッション‐PPIの最新動向も紹介

 ――特にお薦めしたいセッションは。

 津森 AIに関する複数のスペシャルセッションを企画しており、注目してもらいたいです。企業も生成AIにとどまらず、デジタル技術を活用して治験環境を改善したり、承認申請を効率化していく取り組みを検討するようになっています。ただ、AIはあくまでもツールという位置づけであり、AIを上手に活用するためには日本全体でのデータ標準等の基盤整備が必要と考えています。

 AIには企業や規制当局の業務効率化だけではなく、サイエンティフィックな価値を生み出していく側面も期待されています。FDAからもAIを推進する方針が表明されていますが、日本でも医薬品開発におけるAIの活用に向けた基盤整備を考えるきっかけにしたいと考えています。

 AI活用の基盤整備にはそれなりの期間を要するため、現段階からステークホルダー間で何をしていくべきかを考える必要があります。国内で基盤を整備したとしてもグローバルに通用したものでなければいけないと思います。

 もう一つ、これまでのDIA年会でも「患者の声を医薬品開発に生かす」という趣旨のセッションがありましたが、「ICH-E22」(患者選好試験ガイドライン)が本年ステップ1を予定しており、ガイドライン作成に向けた協議がスタートしたのを受け、今回の年会ではE22ガイドラインに関する二つのセッションを予定しています。今後、協議が進み国際的にガイドライン化が実現すれば、PPIの実践に関する国内外初のガイドラインとなる可能性があります。PPIの最新動向について皆さんと共有したいと考えています。

 一方、国際共同治験のセッションも用意しています。製薬企業はグローバルで医薬品を開発し、グローバルの承認申請パッケージで申請するのが主流になっています。今回の年会で「アジア」というポイントが入ったことで改めて国際共同治験を考え直す良いきっかけになればと思っています。

 日本の患者だけではなくもっと広い意味での「患者さんの明日の当たり前」を実現するための議論になることを期待しています。

 ――参加者の交流を促す企画については。

 津森 日本年会では、参加者がディスカッションなどを通じて自分ごととして考えて実務に生かしていただくのを狙いとしています。そのため、少人数のグループディスカッションをする等のインタラクティブなセッションもあります。登壇者と聴講する参加者、参加者同士が意見交換して、そこで収集した情報を正しく理解し、実務に生かしてもらえればと思っています。

 1日目の夜には情報交換会を企画しており、参加者の皆さまだけではなく出展する企業の方と交流できる貴重な場になると思います。

 2日目の夜に企画するチャッティングセッションではテーマごとにいくつかのグループに分けることで、共通の問題意識を持った人たちが集まり、議論する機会も提供します。

危機感共有し挑戦する意識を

 ――最後に、読者へのメッセージをお願いします。

 藤原 年会の開催により日本がアジア全体を緩く束ねながら医療に貢献していくメッセージを発信したい。医薬品開発、市販後をめぐっては製薬企業のみならず、その周辺企業、患者団体、市民団体までステークホルダーが広がっています。そのためには幅広い情報提供が必要。医療関係者やアカデミア、患者の参加はまだ少なく、より多くの人たちに参加していただきたいと思っています。

 その一方で「このままにしておくと日本がダメになる」という危機感を共有できる会にしたい。何度も繰り返しますが、われわれが発信したいのはドラッグロスの問題について「自分ごととして考えてほしい」というメッセージです。

 何の手立ても行わなければ、日本でよい医療を提供できなくなるという認識を持つ必要があります。

 「企業が悪い」「国が悪い」「医師が悪い」といった他人任せではなく、立場や役割のしがらみを超えて全員が問題意識を持ち、自らの努力で解決可能な課題について各プレイヤーが主体的にチャレンジする文化を作り出すことが将来の日本を救う術になると期待しております。



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