今後5年の日本医薬品市場の年平均成長率(CAGR)はマイナス2%~プラス1%の横ばい――。米IQVIAの予測である。世界全体では6~9%、欧米中の主要市場のプラス成長予測と比べ、日本の市場成長は劣る。薬価の毎年改定が要因と指摘した。
この予測をどう受け止めるか。市場は公的管理下にあり政府の薬剤費抑制策の成功と見ることもできるが、製薬は産業でもある。成長しない市場でいいはずがない。
日本経済は、インフレに向かっている。これを機に賃金引き上げを含め企業業績のアップを図ると政府は主張している。2024年度診療報酬改定では医療従事者の賃上げ財源が確保された。薬価制度改革ではイノベーション評価や安定供給支援策が導入された。厚生労働省は努力したし、業界は評価している。
しかし、日本市場の横ばい予測は、後発品などを製造販売する日本市場に依存する企業に厳しいはずだ。これら企業は薬物治療、地域医療のインフラを支える存在であり、その重要性は高い。
政府が供給増を要請した鎮咳薬・去痰薬も10円前後の低薬価品が多い。薬価20円以下の品目は全体の約5割(包装単位品目ベース)、原価率80%以上の後発品は約3割とのデータもある。インフレ下、毎年改定で加速する薬価下落は原価率や利益率を悪化させる。
日本市場の活性化、供給不安の解決、持続的な医療・薬物治療には、IQVIAが低成長要因に挙げた毎年改定、すなわち中間年改定の廃止を視野に入れた検討が必要だ。
1日の衆議院本会議では中間年改定が取り上げられた。大所高所の質疑がなされる本会議では異例のことである。
質問した国民民主党の玉木雄一郎代表は、「薬の原材料価格が高騰する中、医療費削減を薬価に依存する今のやり方では、薬の安定供給もイノベーションもひいては国際競争力を阻害する。何より製薬業界の賃上げも困難。中間年改定を決めた16年末の4大臣会合をやり直すべきではないか」と政府に迫った。
岸田文雄首相は、23年度と24年度の薬価改定での対策を説明した上で「医薬品不足には企業のさらなる増産のための投資の支援や産業構造への課題の検討を通じ、その安定供給を図っていく。今後とも、イノベーションの推進と国民皆保険の持続性を両立する観点から薬価改定を行っていく」とだけ答弁した。
首相が触れた「イノベーションと国民皆保険の両立」は4大臣会合の合意文書の文言だが、その続きがある。「国民の負担軽減と医療の質の向上の実現」である。
薬の供給不足は3年にわたり「医療の質の向上」は崩れている。毎年改定も大きな要因である。そして、その毎年改定は日本の市場を見劣りするものにしている。
医療の質の向上、市場成長を阻む4大臣合意は見直しの時を迎えている。