人工知能(AI)が薬剤師業務にどう影響するのかについて、数年前から議論が活発になってきた。ところが、2年前に彗星のごとく現れた生成AI「チャットGPT」は、さらに全世界に衝撃を与えた。日本語で質問を打ち込むだけで、スラスラと自然な返答が得られるという、かつてないAIチャットサービスが登場したことのインパクトは大きい。既にその賢さは、医師国家試験に合格する水準に達していることでも証明されている。
そんな中、医薬品の副作用情報についてチャットGPTが生成した回答とデータベースに搭載されている内容との関係を調べた興味深い研究結果が、岩手医科大学薬学部の研究グループから報告された。結果は、高血圧治療薬30品目の副作用情報をチャットGPTにより生成された内容と比較したところ、全て一致した品目はわずか2品目にとどまったというものである。
チャットGPTは入力する内容、時間、回数など、わずかな条件に違いによって結果が異なる弱点はあるものの、現時点において一定条件のもとでは大半の副作用情報を見逃しており、100%の正確性を確保する上でも専門家である薬剤師のチェックが欠かせないという結論となった。
注目すべきは、研究が実施された昨年段階からチャットGPTも進化し、自分が分からないことは「専門家でないので分からない」と回答するようになっていることだ。逆に言えば、正しい情報を繰り返し記憶させることで有効活用できる可能性が高いということでもある。
全国的な薬剤師不足が叫ばれている中にあっては、病院、薬局に関わらず、チャットGPTをいかに薬剤師業務の効率化に活用できるか検討する価値は大いにあると言えるだろう。
一方で、神戸ではその名も「ロボット薬局」が稼働する時代になった。調剤のピッキング業務はロボットと事務員が行い、薬剤師は窓口での服薬指導や在宅医療など専門性の高い対人業務に集中するという。
こうなることは既に予想されていた。明らかに対物業務は機械をはじめ薬剤師以外が担う世界へと突入しており、もはやロボットやAIを活用しない未来は考えにくい。
これまでの議論で当初は、ややAIに対する警戒心が強い印象があったが、チャットGPTの登場で局面は大きく変わったように感じる。時代の進歩は著しく、もしかすると数年後にはまた薬剤師業務に影響をもたらす新たなイノベーションが生まれる可能性もある。
それでも、AIが薬の専門家である薬剤師の役割を凌駕するだろうか。決してそうはならないはずで、むしろAIの発達によって薬剤師という「人間」が何をすべきか方向性が定まってくるかもしれない。今後、薬剤師の未来像をより意識した業務が一層求められてくるだろう。