患者の視点から様々な自覚症状を報告してもらう患者報告アウトカム(PRO)が注目を集めている。医療従事者が十分に捉えられない有害事象や症状の悪化を早期に発見できたり、受診時だけでなく連続的な状態の評価を行えたりするなど、PROには様々な利点がある。
近年のスマートフォンの普及によって、電子的にPROの情報を収集する「ePRO」を社会に実装する環境が整ってきた。患者が日々の自覚症状を記録し、その情報を医療従事者と共有する様々なアプリが社会で提供されている。
実際にアプリでePROを試行した臨床研究の成果が、昨年12月に神戸市で開かれた日本臨床薬理学会学術総会で示された。
ある病院の勤務医が報告したのは、外来癌患者を対象にした臨床研究。PROによる有害事象の評価ツールであるPRO-CACTEに準拠したアプリを患者のスマートフォンにインストールし、7日に1回の頻度で自覚する有害事象を入力してもらい、早期介入が望ましい食欲不振、悪心、下痢などの9症状でグレード3以上の回答があった場合、アラートが研究者に送られる体制を構築する。その内容を薬剤師を含む多職種で共有した上で、看護師らが患者に電話をかけて状態を確認。個々の状況に応じて、セルフケアや事前に処方した薬の服用、前倒しの受診など具体的な対応を指示した。
別の医師からは、通常診察では聴取できなかった有害事象をアプリを通じて把握できたとし、「われわれに言えないことや聞き逃していることを上手く拾えるツールになると思った」との報告があった。
今後、ePROの発展に期待が高まるが、気になるのは薬局薬剤師の関与だ。薬剤師には対人業務の一環として、患者の有害事象発現や薬効の状況を的確に把握し、処方医にフィードバックする役割がある。その役割を全うしようと薬局薬剤師は、患者に電話や通信アプリなどで連絡し、能動的に情報を収集する努力を続けている。しかし、ePROの活用方法によっては、薬局薬剤師を介さなくても処方医が直接患者から必要な情報を得られることになる。
この先、アプリで情報を入力する患者が急激に増えるとは思えないが、かといって薬剤師不在の環境が広がるのを見過ごすのは得策ではない。
処方医が患者から直接情報を得る形でのePROが進展すれば、情報が集中する医師の負担が増してしまう。医師が前面に立つのではなく、他職種が情報を整理した上で提案を加えて届けてほしいというニーズはあるだろう。
ePROの社会実装が進む中で、その枠組みに薬局をどう位置付けていくのかを薬剤師自身が意識し、発信していくことが必要だ。薬局薬剤師がePROの臨床研究の輪に参画したり、エビデンスを構築したりするなど関わりを深めて、より良いePROのあり方を探るべきではないか。