最近、薬剤耐性(AMR)関連の話題が多くなってきた。AMRの問題は、その名の通り、細菌感染症に対する抗菌薬に細菌が耐性を獲得して効かなくなることである。耐性を持つのは細菌であり、ウイルスではないことがポイントだ。
人類は、初の抗生物質ペニシリンから、細菌類と抗菌薬開発と耐性獲得のいたちごっこ繰り返してきたが、とうとう最も強いと言われたカルバペネム系抗菌薬に耐性を持つカルバペネム耐性腸内細菌科細菌が登場した。
昨年4月、厚生労働省が第2期となる「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2023~27)」を策定し、具体的な耐性率削減目標を設定した諸対策に取り組んでいる。
カルバペネム系抗菌薬に耐性を持つ菌株を効能効果とする初めての抗菌薬である、塩野義製薬の「フェトロージャ点滴静注1g」が昨年12月20日に薬価収載された。国による抗菌薬確保支援事業の対象であり、承認から短期間での薬価収載だったことから、国としてもAMR対策を急いでいることがうかがえる。
そのほか、九州山口薬学会ファーマシューティカルシンポジウムで抗菌薬の適正使用がテーマに取り上げられたことや、厚労省がAMRや抗菌薬使用量の現状を年次報告書原案としてまとめたことは、既報の通りである。
国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンターは、1月30日に地方と都市部の抗菌薬処方に関する調査結果を発表した。地方と都市部では、「抗菌薬はウイルスをやっつける」という誤った認識を持っている人が共に4分の3程度おり、知識面における差はなかった。
しかし、行動面では、かぜで抗菌薬の処方を直接希望した人は、地方の23%に対して都市部では36%と10ポイント以上の差が生じた結果となったことは、様々な示唆に富む。
ファイザーが発表した中学生以下の子供を持つ保護者1236人を対象とした抗菌薬に対する意識調査の結果によると、▽保護者の約9割が抗菌薬の効果や副反応について間違った認識をしていた▽過半数が抗菌薬を間違った方法で使用した経験があった――などの実態が明らかになった。
調査結果を受けて、川崎医療福祉大学子ども医療福祉学科特任教授の尾内一信氏は、「抗菌薬の間違った使用は、感染症治療を難しくするだけでなく、薬剤耐性菌を誘導して将来使える抗菌薬をなくしてしまうことにつながるので、子供たちの未来のためにも正しい抗菌薬の使用が必要」と訴えた。
抗菌薬で感染症患者を救うことは大前提だが、AMRの問題は結局、尾内氏のコメントに尽きるのではないだろうか。子供の未来のために、大人は抗菌薬とAMRの正しい知識を持って行動することが肝要だ。