山崎雄司、山下武美、島田孝志、浦川到(協和キリン)
福本誠二(たまき青空病院)
低リン血症性くる病・骨軟化症は、ビタミンD抵抗性くる病・骨軟化症とも呼ばれ、慢性低リン血症による骨石灰化障害を特徴とする希少疾患である。われわれは、後天性の低リン血症を特徴とする腫瘍性骨軟化症(tumor-induced osteomalacia:TIO)の惹起因子として、原因腫瘍で過剰発現する線維芽細胞増殖因子23(fibroblast growth factor23:FGF23)を同定した。その後基礎研究を進め、FGF23が骨から産生され、腎でのリン再吸収を抑制すると共に、活性型ビタミンD濃度を低下させるリン調節ホルモンであることを明らかにした。
さらに、血中FGF23測定法の開発と臨床検体のFGF23測定により、TIOや先天性のX染色体連鎖性低リン血症性くる病(X-linked hypophosphatemic rickets:XLH)などが過剰なFGF23活性により惹起されることを明らかにし、FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の疾患概念を確立した。
次に、われわれは治療薬の創製にチャレンジした。自社オリジナルなヒト抗体産生マウスと新規スクリーニング系を用いて、効率的にFGF23中和ヒト抗体を選抜した結果、完全ヒト型抗FGF23モノクローナル抗体ブロズマブを創製した。低リン血症性くる病・骨軟化症の既存の治療法としては、リン酸製剤と活性型ビタミンD3製剤が使用されてきた。この治療は、リン再吸収の抑制を解除できず、尿中に漏出するリンを大量に経口補充、腸管から吸収させる対症療法である。
また、腎機能障害、二次性~三次性副甲状腺機能亢進症などの有害事象が知られている。一方ブロズマブは、過剰なFGF23作用を抑制し、リン再吸収を促進する根本的治療薬となる。
ブロズマブは、わが国ではFGF23の測定と同時に2019年にFGF23関連低リン血症性疾患に対して保険適用となった。現在、ブロズマブは世界40カ国以上で上市され、6000人以上の患者さんに使用されている。本薬などの開発をさらに進めることで、世界のより多くの患者さんに福音をもたらすことが期待される。