河合忠(国際臨床病理センター所長・自治医科大学名誉教授)
マニュアル作成だけで組織は適切に動かない
海上自衛隊による機関砲誤射が起きた。幸い隊員や住民に直接危害が及ばなかった。マニュアル通りに処理が行われなかったためだと報道されている。同じような事故やヒヤリ・ハットは他の分野でも起こっているし、医療界も例外ではない。
多くの場合、適切な行動マニュアルが用意されていても、担当者がそのマニュアル通りに行動していなかったための人的事故である。個人としての人間の力量や精神的集中能力には限界があることは、“百も承知”である。それであればこそ、それを前提にいろいろなマニュアルが用意されている。マニュアルがどのように優れた内容を記載していても、それを実行しなければ“絵に描いた餅”ということになる。
臨床検査室の品質と能力に関する要求事項を取りまとめた国際規格としてISO 15189が2003年に発行されて、世界中で関心が高まっている。その中で、マネジメント要求事項と技術的要求事項の中で、繰り返し文書化、すなわちマニュアル作成を要求している。その上、それらのマニュアルが管理者によって適切に管理されることに加えて、日常業務を行う現場で容易に見ることが出来るように、守ることが義務付けられている担当者の身近にも用意することを強調している(ISO 15189:2003, 4.3 Document control)。
マニュアルの全文である必要はないが、要点を簡潔に記した冊子をいつでも担当者の目に触れるところに用意することである。担当者がいつでも必要な時に、直ちにしかも短時間で閲覧可能な状況にしておくことが必要である。それぞれの現場に合った形で文書形式を工夫し、いつもマニュアルの要点を意識して作業を進める習慣を身につけるよう努力することで、多くの人的事故を未然に防ぐことが可能となる。