先月、滋賀県で開かれた第42回日本薬剤師会学術大会の開会式に、映画「おとうと」に薬剤師役として主演する吉永小百合さんと山田洋次監督が駆けつけた。2人の来場は、映画のキャンペーンを目的としたもので、松竹側から日薬に申し入れがあったという。
来年1月に全国でロードショーされる「おとうと」の筋書きは次のようなものだ。
夫を早く亡くした吟子(吉永小百合)が、女手一つで東京の私鉄沿線にある商店街の一角で高野薬局を営みながら、一人娘の小春(蒼井優)と義母の絹代(加藤治子)と3人で暮らしている。
小春とエリート医師との結婚が決まり、一家は幸せの頂点にあった。だが、その披露宴に、長らく音信不通で、大阪で役者をしているはずの吟子の弟・鉄郎(笑福亭鶴瓶)が突然現れ、酔っ払って台無しにしてしまう。
激怒する身内の中で、一人鉄郎をかばい続ける吟子であったが、後日、ある出来事がきっかけで、鉄郎に絶縁を言い渡す。肩を落として出て行く鉄郎の後姿に、不吉な予感を覚える吟子であったが、不幸にもその予感は見事に的中する。
消息不明となった鉄郎が、救急車で病院に運ばれたことを知った吟子は、家族の反対を押し切って去来する想いを胸に大阪に見舞いに行く。だが、ベッドに横たわっていたのは、全身に癌が転移した余命いくばくもない弟だった。
喧嘩したり、許したりを繰り返す家族に、いつかは訪れる最後の別れ。どのように吟子は弟を看取り、現実を受け入れていくのか。
“家族に会いたくなる、人恋しくなる”。そんな映画が「おとうと」である。
日薬学術大会開会式のステージに登場した山田監督は、「この映画の舞台は、早い時期から薬局に決めていた」と明かす。その理由は、「顧客として見てきた薬局は、穏やかで静かで充足した暮らしが想像できる。この物語にふさわしいと思った」からで、主役の吉永さんは「優しいお姉さん役と町の薬剤師のイメージがピッタリ合致した」と強調する。
さらに、「町の薬局には、地域の人々が立ち寄って、健康や病気について様々な相談を持ちかける。そこには、お店と顧客との深くて長いつながりを感じる」と語る。「大型店が多くなり、そうした細やかなつながりが消えつつあるのは、とても不幸」と、薬局と地域のつながりと家族の絆をダブらせ、「それらが崩壊しつつあるのを、この映画のテーマにした」と説明した。
一方、吉永さんは「50年近い女優生活の中で、薬剤師役は今回が初めて」と話す。さらに、薬剤師の印象を「とても真面目で、素敵な人が多い」と語り、「映画の中では、暖かい薬剤師を演じることを心がけた」と打ち明けた。
「庶民の目線で、温かみのある薬局」。2人が抱く町の薬局のイメージは、奇しくも日薬が提唱する「かかりつけ薬局」の理念そのものだ。山田監督と吉永さんの感性の鋭さには今さらながらに驚かさるが、実際にこの話を聞いて、「我が意を得たり」と喜んだ薬剤師も少なくないだろう。
これまで、「白い巨塔」や「ナースのお仕事」など、医師や看護師にスポットを当てた映画は多い。だが、薬剤師が主役となる映画はほとんどなかったと言ってもよいだろう。
映画「おとうと」が、薬剤師職能PRの絶好の追い風となるように、町の薬局にもその役割をしっかりと果たしてほしい。