循環器領域の大規模臨床試験の資金源を調べたところ、約半数が製薬企業等の「私的機関」から資金提供を受けている実態が、澤田弘氏(東京大学大学院薬学系研究科医薬政策学)らの調査で明らかになった。5日、横浜市で開かれた第30回日本臨床薬理学会年会で発表した。最も多い資金源は「財団」だったが、実際には、ほとんどが製薬企業等から資金調達されていた。澤田氏は「様々な資金源との関係が不透明なことが、エビデンスの信頼性への懸念を生んでいる」と指摘し、ファンディングに関するルール整備の必要性を提言した。
澤田氏らは、循環器領域の大規模臨床試験のファンディングと、インフラの現状を検証するため、臨床試験を企画・実施し、資金調達をする個人・組織を「スポンサー」と定義。心血管イベントを真のエンドポイントとして行われた、被験者数300人以上の119臨床試験のスポンサーを対象にアンケート調査を行った。
調査は、2007年8~12月、09年7~8月の2回にわたって実施し、調査票を送付した119試験中63試験のスポンサーから回答を得た。
研究費を「スポンサー」に提供している直接の組織・機関は、「財団」が25試験(39・7%)と最も多く、次いで「公的機関」が21試験(33・3%)、製薬企業等の「私的機関」が13試験(20・6%)、「自己調達」が10試験(15・9%)と、7割以上が財団か公的機関から資金提供を受けていることが分かった。
ただ、財団の資金源を詳しく見ると、回答があった全ての16試験が、私的機関から資金提供を受けていることが判明。実際には、約半数の試験が製薬企業等の支援によって行われている実態が浮かび上がった。
研究費の総額は、最も多かったのが1~3億円で19試験(30・2%)、3~10億円が10試験(15・9%)、10~30億円が2試験(3・2%)と、3分の2が1億円以上で、30億円以上を超える試験も1試験あった。公的機関のみを資金源としていた臨床試験に限ってみると、3億円以上の試験はゼロだった。
また、第三者による有効性・安全性判定委員会の設置、生物統計家の関与、IRBの審査・承認状況を調べたところ、「第三者有効性・安全性評価判定委員会」の関与している試験は40試験(63・5%)、生物統計家の関与は45試験(71・4%)、IRBの承認を受けている試験は58試験(92・1%)との結果で、4試験がIRBの承認を得ていなかった。
臨床試験登録システムへの登録の有無では、UMIN-CTRが24試験(38・1%)と最も多く、クリニカルトライアルズ・ドット・ゴブが21試験(33・3%)と、7割以上が登録を行っていた一方、登録していないとの回答も23試験(36・5%)に上った。
澤田氏は、「真のエンドポイントを用いた臨床試験からのエビデンスは、診療ガイドライン作成のためにも欠かせないが、そのためには多額の資金が必要」とした上で、「エビデンスは様々な資金源、インフラから作られているが、それらの関係が不透明なことがエビデンス、それを含んだ診療ガイドラインの信頼性への懸念を生んでいる」と指摘。
複数ファンドの使い分けの推進、その具体策の明確化、利益相反の開示の徹底など、ファンディングや人的サポートに関するルールの整備が必要と提言した。