以前は、乳幼児の感染症といわれた百日咳が、2000年以降、20歳以上の成人層に増えてきている。今年の18週(5月3~9日)までの感染症発生動向調査では、20歳以上の報告数が半数以上を占め、もはや、乳幼児の疾患とはいえなくなってきた。こうした状況は、乳幼児のワクチン接種にも影響を及ぼす可能性もあり、今後、成人を含めたワクチン接種体制見直しの必要性も出てきている。国立感染症研究所の「感染症週報」(第17~18週)で指摘した。
百日咳は、好気性グラム陰性桿菌の百日咳菌感染を原因とする急性呼吸器感染症。特有のけいれん性咳発作(痙咳発作)を特徴とし、母親からの移行抗体が有効に働かないため、乳児期早期から罹患する可能性がある。百日咳ワクチンを含んだDPT三種混合ワクチン(ジフテリア、百日咳、破傷風)を接種していない生後6カ月以下の乳児が罹患した場合、死に至る危険性もある。
これまで百日咳は、乳幼児を中心とした小児で流行する疾患とされてきたが、ワクチンの開発・普及と乳児期の接種率の上昇によって、発生報告数は大きく減少した。しかし最近では、小児科定点報告疾患であるにもかかわらず、20歳以上の成人例の報告数が年々増加してきており、かつての「乳幼児を中心に流行する疾患」と呼ぶには、ふさわしくない状況になりつつある。
全国3000カ所の小児定点による感染症発生動向調査では、今年の18週の週別患者報告数は70例(定点当たり報告数0・02)で、ゴールデンウィーク期間中であるにもかかわらず、前週(第17週)の報告数(68例)をやや上回った。ただ2008年、09年の同時期の報告数より少なかった。
都道府県別では、広島県11例、神奈川県10例、栃木県7例、千葉県7例、東京都7例、福岡県4例の順となっている。今年第1~18週までの累積報告数は1261例で、00年以降の過去11年間では、09年(1723例)、08年(1670例)に次いで多い。
年齢群別では、20歳以上56・8%(716例)、0歳10・5%(133例)、1歳4・5%(57例)、2~3歳6・5%(82例)、4~5歳6・1%(77例)となっている。20歳以上の報告割合は年々高くなってきており、今年は50%を上回る状況となった。
累積報告数を男女別でみると、男性41・5%(523例)、女性58・5%(738例)と女性の報告割合が高く、0歳児では男児の報告割合が高いものの、20歳以上では女性の報告割合が60%以上を占めている。
百日咳は現在でも、ワクチン未接種の乳児が罹患すると、重症化が危惧されている。また、既に米国などでは、思春期から成人層への百日咳対策として、ワクチンの追加接種が実施されている。
週報では、「日本でも早急に検討が必要と思われる。現状のままで何ら有効な対策が講じられなければ、今後は成人層を中心とした百日咳の流行が、毎年継続的に発生し、それによってワクチン未接種の乳児への感染機会も増加することが懸念される。百日咳の今後の発生動向には注意が必要」との見解を示している。