抗炎症薬やアルコールの多飲などによるストレス性の胃出血疾患に、蛋白質分解酵素の「カルパイン」の機能不全が関与することを、東京都臨床医学総合研究所のグループが見出した。研究は、新潟大学脳研究所、国立国際医療研究センター研究所消化器免疫研究室、東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命科学専攻、科学技術振興機構などと共同で行われたもので、今後、ストレス性潰瘍などの診断や治療への応用が期待されている。
カルパインはカルシウム依存的に基質を限定分解(プロセシング)する細胞内プロテアーゼ。ストレスや変化を感知して、様々な蛋白質を切断し、細胞内の環境整備する細胞の調整役として知られ、ヒトは14種類のカルパインを持っているとされている。
そのうち、カルパイン8と9が、ストレス性の胃潰瘍などに関与していることが考えられてきた。実際、都臨研のグループが調べた結果、胃粘膜の表層を覆うようにして並ぶ表層粘液分泌細胞に、カルパイン8と9が集中して発現していることが見出されている。ただ、その機能については分かっていなかった。
研究グループでは、その機能を明らかにしようと、カルパイン8と9のノックアウトマウスを作製して検討を行った。その結果、それぞれのノックアウトマウスは、普通に飼育する限りは正常で、顕著な胃病変は認められなかったものの、ウイスキー程度のアルコール溶液を投与すると、通常のマウスに比べて、どちらのノックアウトマウスも、胃粘膜に損傷を起こしやすいことが分かった。
その際の表層粘液細胞の粘液産生能について調べたところでは、通常のマウスと変わりはなかったことから、カルパイン8と9は粘液バリヤーの形成ではなく、損傷した粘膜の修復などの機能に重要な役割を果たしているものと考えられている。
さらに、カルパイン8と9は一体化して機能していることも見出した。一方が欠けてしまうと、もう一方も不安定になって機能できなくなり、それぞれのノックアウトマウスとも同様の症状を示す結果が得られている。
ヒトではカルパイン8と9それぞれに、一塩基多型(SNPs)が数種類ずつ、様々な頻度で見られることが報告されており、その一部のSNPsは、カルパイン8と9の酵素機能を発揮するための重要な位置に生じている。そうしたSNPsを持つ場合では、酵素機能が損なわれている可能性があり、それによってストレス性の潰瘍など胃出血疾患が生じているケースがあると見られている。
実際、アルコールの多飲や抗炎症剤の長期服用などによって、潰瘍性の胃疾患が引き起こされるが、その程度には大きな個人差のあることも知られている。そうした個人差に、カルパイン8と9のSNPsに伴う酵素機能の損失が関与している可能性がある。そのため研究グループでは今後、カルパイン研究をさらに進め、胃疾患の診断や予防、治療に結びつけたいとしている。