CRO(医薬品開発業務受託機関)の事業再編が加速している。今年に入って、モスインスティテュート、クロノバ、アツクコーポレーション、東京CROのデータマネジメント(DM)・統計解析事業が相次いで買収され、業界の整理・統廃合が一気に進んだ。日本CRO協会が公表した2009年の年次業績によると、総売上高は前年比10・1%増と二桁の伸びを維持したが、初めて成長鈍化の傾向が明らかになった。10年度は6・2%増と一桁成長にとどまる見通しで、CRO業界は、高成長時代の終焉を迎えようとしている。今後も成長の余地は残されているが、限られた市場を求めて、一層の再編圧力が増すことは確実な情勢になってきた。
国内で加速する事業再編の動きは、製薬企業の開発環境が大きく変化する中、乱立したCROの整理・統廃合の意味合いが強い。CRO協会の業績推移報告書を見ると、05~07年の総売上高の伸び率は約20%だったのに対し、08~09年には約4・7%と、明らかな成長鈍化がうかがえる。特に、成長を牽引してきたモニタリング業務の落ち込みが大きく、こうした環境変化に対応できないCROが出現し、業界再編が一気に進行する格好となった。
実際、CRO市場の成長は鈍化傾向にあるものの、DM・統計解析業務、製造販売後調査の受託増、さらに大型プロジェクトの一括受注増など、製薬企業のニーズ変化に対して、新たな需要を獲得したCROが好業績を収め、特徴を打ち出せないCROが打撃を受けている二極化の構図が見て取れる。
こうした中、台頭してきたのがIT系企業で、CROの事業譲受や提携によって、業界再編の主要プレイヤーとして躍り出てきた。シーエーシーがモスインスティテュートのCRO事業を譲受し、アグレックスがクロノバの完全子会社化で両社のCRO事業を統合し、新会社「ACメディカル」を設立したことは象徴的な動きとなった。業界内には、「IT系企業の主導によるM&Aがどこまで成功するのか」(中堅CRO幹部)と警戒する声も多いが、IT系企業によるCRO事業の成否によって、業界地図が塗り替えられる可能性もある。
一方、国内では、大手のシミック、イーピーエスの2強が突出した強さで、これに大手外資系のクインタイルズを加えた3社が上位を占めている。ただ、既にシミック、イーピーエスの2強は、SMO、CSOなど、事業の多角化を推進することで、高成長を維持している。シミックが東京CROのDM・統計解析事業、イーピーエスがアツクコーポレーションのCRO事業を買収したのは、あくまでもDM・統計解析、モニタリング業務の即戦力補強という側面に過ぎず、業績が悪化したCRO事業の整理・統廃合が一層進められた格好だ。
現在、大手2社の多角化路線に追随する動きは見られていないが、ここへ来て中堅CROは、アジアを中心に本格的な海外展開に動き出し、小規模CROは特化型を目指して生き残りを図ろうとしている。今後、CROの整理・統廃合の動きが確実に進む一方で、成長著しい中国をはじめとしたアジア市場の取り込みを目的に、戦略的な提携が活発化するものと見られる。
今後、国内CRO市場は、初めて一桁成長時代を経験することになる。プロジェクト数の増加傾向、アウトソーシング率の海外並み拡大の余地が残されているのは好材料と言えるが、大型プロジェクトの受注増傾向を考えると、製薬企業の多様な開発ニーズを捉え、市場を獲得できるCROは限られてこよう。結果的に規模の追求が加速するものと予想され、業界再編は経営難による整理・統廃合から、新たな成長機会の獲得を目指した次のステップへと活発化していく可能性がありそうだ。