生活の質を著しく低下させる“慢性の痛み”。外来受診の際の自覚症状の上位を腰痛、肩こり、関節痛、頭痛が占めるとの調査報告があるほど、多くの国民が抱える悩みだが、筋骨格系疾患、神経系疾患、内科系疾患から原因不明のものまで様々な上、痛みの客観的指標が確立されておらず、なかなか解決が難しく、就労困難者もいるという。こうした社会的課題にどう対応すべきか。厚生労働省の「慢性の痛みに関する検討会」は、この課題に取り組む方向性をまとめた。
診療報酬での評価も必要に
検討会は、既に取り組まれている癌性疼痛を除く慢性痛を対象に、現状や課題を整理している。それによると、現在の医療提供体制について、従来通りの消炎鎮痛薬の使用や神経ブロックといった治療などでは、「治療抵抗性を示す慢性の痛みに対し、必ずしも適切な治療法を選択しているとは言い難い」という。本来であれば、個々の疾患分野や医療職種に限定されない、総合的なアプローチが求められるものの、「痛みを専門とする診療体制は十分に整備されていない」としている。
科学的根拠に基づく情報が整理されておらず、医療従事者、患者、国民が適切な医療の最新情報を容易に入手できる相談窓口、情報センターの整備も不十分で、痛み診療に対する認識には、一般医と専門医の間、専門医同士の間、医療従事者と患者の間で、格差があることも指摘している。
また、臨床現場では麻薬性鎮痛剤の使用など、薬物療法の選択肢が広がりつつある一方で、諸外国で痛みに対する有効性が確立されている抗てんかん薬や抗うつ薬でも、国内で適応外となっているケースが多いことを問題視。そのため、「慢性の痛みに適正に使用できるようにする方策も、具体的に検討していく必要がある」としている。
さらに、精神医学的・心理学的な要因が少なからず関与しているものの、精神科や心療内科の医師による早期介入が極めて少なく、患者が主体的に治療へ参加できる体制も不十分なために、痛みを長引かせていることも指摘。「適切かつ十分な説明に関しては、診療報酬においても評価されるべき」としている。
その上で、これから必要な対策を、▽医療体制の構築▽教育、普及・啓発▽情報提供、相談体制▽調査・研究--の四つの視点で整理している。一般医や専門医の診療レベル向上、チーム医療の形成を提案しているほか、医療従事者の育成や患者による痛みの受容を図ると共に、正確な情報発信や社会全体で痛みに向き合うような働きかけを求めている。
また、調査・研究として、▽慢性の痛みの頻度・種類や治療法の現状把握▽痛みの評価方法や有用なチーム医療の手法の開発▽難治性の痛みの病態解明▽新規治療薬や治療法の開発▽治療ガイドラインの策定と教育資材の開発――を提案している。