日本癌学会は先月、大阪で開いた第69回学術総会で、産学官患医が一丸となって癌研究を活性化し、癌の撲滅を目指す「大阪宣言2010」を発表した。
宣言では、癌研究を活性化するための三つの課題として、▽研究資金▽人材育成▽国民との協働――を掲げ、「これら課題の解消に取り組むことで、癌で苦しむ人がいない社会の実現を目指す」としている。
わが国の学術集団が、研究資金や人材育成、国民との協働まで踏み込んだ戦略を発表したのは、今回が初めてだ。これまで、一般市民にとって「雲の上の存在」であった学会が、国民目線に立って研究を推進する姿勢を示したことは大きく評価できるだろう。宣言が、患者中心の医療をより具現化するための呼
び水になってほしいと願う。
宣言で課題に挙げられた癌研究推進のための資金確保は、2人に1人が癌に罹患する時代にあって、国民的な最重要課題の一つといえる。
しかし、癌研究費の現状は、米国WCI予算4500億円に比べて、日本政府の予算は373億円に過ぎず、不足している感は否めない。加えて、文部科学、厚生労働、経済産業の3省を主体とした研究が独自に進められており、残念ながら国家レベルでのイニシアチブは存在しない。
宣言では、国家的な戦略性を持って研究財源の確保や予算配分ができるよう、関係省庁が一体となって対応できる体制構築を政府に強く要請していく戦略が示されており、今後の動向が注目される。
「人材育成」に関しては、わが国では、医学部卒業者で基礎研究へ進む人材が非常に少なくなっているという問題がある。研究が成果主義にとらわれがちな最近の傾向も、これに拍車をかけているようだ。
この問題を解決するには、どのような手立てが考えられるか。やはり、大学1年生の時期から、医学研究の面白さを伝えるためのカリキュラムを構築する以外に方法はないだろう。基礎、臨床にかかわらず、リサーチマインドを持った医師の育成にもつながり、ひいては癌研究の推進にも寄与するだろう。
宣言でも、将来を見据えた戦略的な人材育成のあり方を検討できる体制構築を目指して、癌学会自らが努力すると共に、日本医学会をはじめとした学術集団や全国の大学、研究機関に働きかけ、癌研究分野で世界をリードする人材を創出するとしている。
一方、「国民との協働」は、癌研究を推進する上で不可欠だ。欧米諸国では、患者パワーを活用した癌研究応援団の創成が、癌研究推進に貢献している実例が少なくない。マスメディアも患者活動を後押し、政治へのアピールにもつながっているようだ。
欧米の対癌活動は、大規模なボランティアに支えられ、多くの医師や患者・家族も活動に参加している。さらには、巨額な募金の40~50%は研究者への助成であり、癌研究の重要性が国民に広く浸透しているという。
わが国でも、欧米と同様の風土を構築するには、癌の基礎研究が臨床に応用され、標準治療となって国民の福音となり、国の成長戦略の柱である医薬品産業の発展にもつながることを、国や学会、業界が中心となって広く伝えていく必要があるだろう。「大阪宣言」が、わが国発の画期的な新規抗癌剤開発の礎となることを期待したい。