
土屋社長
「企業が成長する時が、会社が変わるチャンス。C型肝炎やメドウェイ問題で得た教訓を生かして、新しい企業風土を確立し、国際製薬企業を目指したい」と、田辺三菱製薬社長の土屋裕弘社長は力強く宣言する。同社では、次期中期経営計画(2011~15年)中に、国内で6品目以上の新製品上市を見込んでおり、着実なスケールアップを目指す。さらに、同社グローバル展開の足がかりとなる海外戦略品の高リン血症治療剤「コレバイン(MCI‐196)」が今年度中、慢性腎臓病治療剤「クレメジン(MP‐146)」も来年度中にFDA申請を予定しており、“国際創薬企業”に向けてのテイクオフが現実化する。
土屋社長は、中期経営計画08~10の進捗状況について、「売上高、経常利益ともに、数値目標(それぞれ4600億円、950億円)を達成できない見通しにあるが、国内営業体制や研究開発をはじめとする質的強化には成功した」と話す。
売上高未達の主な要因として、「子会社の連結切り離し、薬価引き下げ、ジェネリック医薬品(GE薬)の伸長、DPCの浸透」を指摘。「売上高の未達が経常利益の未達につながった」と分析する。一方、コストシナジーは、3月末には188億円だったが、本年度中に目標の240億円を達成する。
中期経営計画08~10の期間中、特に目を引くのが、後期段階にあった開発品の着実な進捗だ。その結果、次期中計中に国内で上市が見込まれる新製品候補として、ノバルティスと共同開発中の多発性硬化症治療薬「FTY720」(年内申請予定)、C型慢性肝炎治療薬「MP‐424」(来年早々申請予定)、持田製薬と共同販売する抗うつ薬「エスシタロプラム」(本年9月申請)、SGLT2阻害薬「TA‐7284」(国内PII、海外PIII)、DPP‐4阻害薬「MP‐513」(国内PIII、米PI、欧PII)、6月に国内申請した皮下注射剤の関節リウマチ治療薬「CNTO148」などが、上市を控えている。
「レミケード、ラジカット、メインテートなど、従来の主力品に加えて、これらの新製品候補を軸とした次期中計の展開を考えている。国内外ともに、攻めの経営に徹したい」と強調する。「現在のMR数は2300人程度だが、新製品上市に伴い、いかに営業戦略を構築するかがポイントになる」とも指摘する。
今後の研究開発についても、「合併により研究開発費が700~800億円に増大し、国際展開が可能な規模になった。16年以降も引き続き新製品が上市できるように尽力したい」とする。重点開発分野としては、「アンメットメディカルニーズの医薬品開発も視野に入れながら、現在の免疫、炎症、代謝、腎疾患の再検討も実施している」段階だ。
同社では、アンメットメディカルニーズ医薬品の開発を目的に、低分子医薬品に加えて、高分子医薬品の研究を充実させるため、「バイオロジクス研究部」と「ワクチン事業推進室」を開設。米国研究所の「TRL」でも、低分子医薬品から抗体医薬に方向転換した基礎研究を推進している。
一方、「コレバイン」「クレメジン」発売後の海外戦略については、「基本的には、開発から販売までを、自社で行う体制を構築したい」と強調。その上で、「開発動向によっては、身の丈に合った規模の現地法人のM&Aも勘案している」と明かす。
また、GE薬事業にも言及し、「今期の売上高は135億円を見込んでいる」とした上で、「当社の長期収載品の中で、製品価値の最大化が見込める医薬品は、田辺製薬販売に移管する。特許が切れる医薬品についても、着実にキャッチアップして上市したい」と明言。「田辺製薬販売を利益創造体質にした後に、M&Aを含めた他社と協業する」考えを明らかにした。
OTC薬部門については、「アスパラ、フルコート、ナンパオなどのブランドをはじめ、スイッチOTC薬候補が豊富な点もわが社の強み」と述べ、「当分は今のままで進めて行く」方針を示した。
土屋社長は、遺伝子組み換えアルブミン製剤「メドウェイ注」試験データ改ざん問題にも触れ、「是正措置は9月に終了し、その他改善計画も順調に進んでいる」とした。ただ、「社会の信頼を失うのは一瞬だが、信頼回復には時間がかかる」とし、「再発防止の一環として、全社員との対話集会を90回以上開催することにしている」という。
どの対話集会でも、土屋社長の、学問の勧め、協業の勧め、(人事)異動の勧めの話の後に、参加者でディスカッションが展開されている。
最後に、土屋社長は「これらの経験は必ず会社の財産になる。次期中計にも生かしたい」と抱負を述べた。