武田薬品と京都大学は18日、京都市内で記者会見し、5年間の協働による研究開発契約を結んだと発表した。武田薬品が重点領域に掲げる肥満症と統合失調症の治療薬創製などが目的。研究計画立案など初期段階から両者が協議して取り組みを進めるところが、従来の共同研究とは異なる新しい形という。必要な研究費は武田薬品が提供。その資金をもとに若手研究者ら30人以上を雇用し、新規創薬ターゲットの探索などを進める。
名称は「中枢神経系制御薬の基礎・臨床研究プロジェクト」(TKプロジェクト)。「協働運営」「研究開発推進」「知財」の各委員会を設け、武田薬品と京大からほぼ同数の委員を出して、対等にプロジェクトを運営する。研究費の総額は非公開。どのようなアプローチで治療薬の創製につなげるのか、研究計画立案の初期段階から両者が協議して取り組むことが特徴だ。
40代前半までの若手研究者10人を今年4月以降、京大特定准教授として新たに雇用。それぞれにポスドクや技術者をはりつけて合計10グループとし、少なくとも総勢30人以上の研究者集団を構成する計画。それを各領域の中核研究グループが支援する。
肥満症領域は、京大医学研究科内分泌・代謝内科学教授の中尾一和氏がリーダーを務める。統合失調症領域は外部から新たに教授を雇用する予定だ。
創薬ターゲット探索だけでなく、バイオマーカー探索、薬効や副作用に関係する遺伝子型の解析、既存薬の反応性データ解析など、臨床医学研究にも取り組む。研究成果の知的財産は、基本的には武田薬品に優先的に執行する権利がある。
研究の実施場所は当面、武田薬品の大阪工場・研究所(大阪市)を活用する。1年後をメドに、京大吉田キャンパス(京都市)に「京都大学メディカルイノベーションセンター」(5階建、約8000m2)を新設する計画で、竣工後はそこに移動する。
武田薬品取締役研究開発統括職の大川滋紀氏は、不足する技術を取り込むような、従来型の共同研究とは異なり、TKプロジェクトは「難しい疾患にどう取り組むか、最初から両者で協議し、ドラッグディスカバリーから臨床に至るまでの最適なアプローチを考える、この枠組みは非常に新しい」と話した。
京大大学院医学研究科長の湊長博氏も、「わが国の新しい創薬研究の開発モデルを提示し得るものと強く確信している」と強調。同副研究科長・メディカルイノベーションセンター長の成宮周氏は、「創薬の世界ではパラダイムシフトが起こっている。個々の分子に目を向けて機能を解析し、薬を創るのではなく、最近の医学研究は、疾患で何が起こっているかをまず同定し、それに対して薬物を創る。患者さんから出発してバイオマーカーやターゲットを見つける。患者さんにアクセスできることが大事」と話した。
武田薬品は、外部の研究資源を積極的に取り入れるオープンイノベーションに力を入れている。一方、京大も、技術の産業化と若手研究者の育成を目的に、対等な協力関係に基づくオープンイノベーションの場として、「メディカルイノベーションセンター」を昨年末に発足。アステラス製薬とのAKプロジェクト、キャノンとのCKプロジェクトが既に稼働している。