製剤装置開発やコンサル事業を手がけるモリモト医薬(盛本修司社長)は、医療用医薬品やOTC医薬品などに応用できる新剤形として、内服用ゼリーキット製剤「GT剤」を開発した。細長い筒状のフィルム内に、粉末状の有効成分と少量のゼリーを分けて閉じ込めた構造。フィルムの端をくわえて、ゼリーを指で口腔内へ押し出し、有効成分を包み込むようにして服用する。高用量製剤にも対応できるなど、既存の剤形にはない様々なメリットがある。複数の大手新薬メーカーと共同研究を実施しており、早ければ2014年に、GT剤による医療用医薬品を上市したい考えだ。
GT剤は、ゲル・トゥギャザー剤、グッド・テイスト剤の略称。ゲル状のゼリーを嚥下補助剤として、水なしで苦味を感じることなく、ゼリーを押し出すだけで薬を容易に服用できる。有効成分とゼリーを弱シールで隔てた構造は、ダブルバッグ輸液製剤に近い。服薬補助ゼリーと薬剤を1回服用分ずつキット化したものともいえる。
有効成分はオブラートで包まれており、薬の味やにおいをマスクできる。高齢者など嚥下困難がある患者や、薬をのませづらい小児、水分摂取制限のある腎臓病患者などに適している。
GT剤は、有効成分だけを封入できるのもメリットの一つ。希釈や成形のため、他の剤形で用いられている添加剤は不要。一定量の粉末を、全て秤量しながら高速で容器に充填できるモリモト医薬の技術によって、それが可能になった。
ゼリーで有効成分を包み込むため、服用感を損なわず、10mg程度の微量から、最大1000mgまでの高用量に対応可能だ。これまで、高用量の錠剤化は難しく、実現しても大きな錠剤になってしまい、のみづらかった。
有効成分とゼリーを閉じ込めた細長い筒状のフィルムは、三つ折りになっている。三つ折り時は、強い力で押してもゼリーが漏れない構造。口にくわえる部分はポケットに差し込まれ、清潔な状態を保ったまま持ち運べる。服用時には三つ折りを開いてフィルムの端をくわえ、ゼリーを押し出しながら有効成分と一緒にのみ込む。有効成分には一切触れずに服用できるため、抗癌剤のように暴露が懸念される薬剤にも適している。
GT剤は、新しい剤形として様々な目的で活用できるほか、製品寿命を延長させるライフサイクルマネジメント(LCM)の有力な選択肢にもなる。基本的には、どんな有効成分もGT剤に転用可能だ。
口腔内崩壊(OD)錠は一時期、LCMの選択肢となったが、今やジェネリック医薬品各社はOD錠の技術を確立した。また、OD錠は、大きさや味に課題があるとされ、一部で誤嚥性肺炎を起こす可能性が指摘されている。
カップゼリーやスティック型ゼリーなど、従来のゼリー剤に比べてかさばらないことも特徴だ。標準タイプでは、三つ折り時の大きさは縦1cm、横3cm、厚みは5mmほど。ゼリーは4~8ccと少量。既存のゼリー剤は、ゼリーに有効成分を混合するため、安定性や味に課題があって、それほど活用されなかったが、GT剤はその課題を解決できる。
新薬開発の短縮化も‐有効成分のみで評価
GT剤は、新薬開発期間の短縮にも役立つ。通常、錠剤で治験を行う場合、錠剤の処方化や造粒など、製造工程の確立が必要で、これに半年ほど必要になる。そうしたプロセスが不要のGT剤を使うと、新規成分さえあれば、すぐにヒトでの評価を行える。開発早期段階で、ヒトでの有効性を確認したい時などに活用できるという。
医療用医薬品に限らず、ドリンク剤などOTC医薬品にも幅広く応用可能だ。このほか、ラベルにバーコードを表示することで、医療安全の向上にも役立てられる。
モリモト医薬は現在、複数の大手新薬メーカーとGT剤の共同研究を実施中。並行して、製造の自動化や製造委託先の確保を進めている。順調にいけば、今年から来年にかけて治験薬を製造し、12年にはヒトでの生物学的同等性試験を実施。13年にGT剤を応用した医療用医薬品の製造承認を申請し、14年頃に上市する見通しだ。
GT剤の概要について盛本氏らは、15~18日にドイツで開かれる国際包装研究機関連盟の第25回シンポジウム、29~31日に都内で開催される日本薬剤学会第26年会で発表する。
GT剤について、京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻の荒井秀典教授は、「現在、嚥下障害者には誤嚥しないように、服薬時には薬をつぶしたり、55度の水に溶かして、とろみをつけて一体化させている。この剤形は、誤嚥を防ぎ、医者側としての手間が省けて非常にいい剤形」と評価している。