日本医薬品情報学会は7月、過渡的認定者として29人を「医薬品情報専門薬剤師」として認定した。学会Webサイトで公開された認定者リストを見ると、所属先は薬系大学、病院、薬局、医薬品卸、行政機関など実に幅広い。
この認定制度は昨年、同学会が立ち上げた。医療現場だけでなく、幅広い分野の薬剤師を対象にした専門薬剤師制度は初めてだ。
医薬品は単なる物質ではない。そこに情報が伴って初めて有効、安全に活用できる。医療現場で薬剤師は、情報を集め、評価、加工して、医師や看護師らに提供する役割を担っている。さらに、情報を作って提供する製薬会社、情報の評価や安全性情報の発信を行う行政、次世代を育てる大学など、様々な組織に所属する薬剤師の役割も重要だ。
このように医薬品情報の構築や評価、活用には、様々な立場の薬剤師が関わっている。医薬品の適正使用を実現するために、その基盤となる医薬品情報に関する業務や教育を、各組織に属する薬剤師に、高い専門性を持って幅広く担ってほしいという考えが、制度構築の背景にある。
医療現場において医薬品情報業務は、薬剤師が身につけておくべき基本的スキルだ。それだけに、わざわざその専門性を認定するのはおかしい、との見方もあるかもしれない。
実際に、約4年前から始まった制度構築に向けての議論でも、そこは論点になったようだ。
議論の結果、病院では「組織全体の医薬品情報に関する業務を主導できる人材が必要」との考えから、制度構築に至った。各薬剤師が専門領域に分化するにつれて、組織全体を見る人が不在になることが危惧されたからだ。
病院では、医薬品情報室に常勤する薬剤師に資格を取得してもらいたい考え。病院全体を俯瞰し、必要な情報が必要な場面で活用できるように体制を整えたり、ある薬について緊急安全性情報が出た場合には、院内全体でどういう対策が必要なのか考えて実行に移したりするなど、適正使用の司令塔のような働きが期待されている。
一方、薬局においては、各地の薬剤師会の薬事情報センターや、チェーン薬局の学術部門で働く薬剤師、行政機関では、医薬品の安全性情報を取り扱い、医薬品の安全対策を立案する薬剤師の取得を見込んでいる。
製薬会社や医薬品卸においては、学術情報部の責任者としてインタビューフォームの作成やMR研修を行う時に中核となる薬剤師、薬系大学では、医薬品情報を教える教員の資格取得を想定している。
第1回目の認定試験は来年4月以降の早い時期に実施される予定だ。「医薬品情報専門薬剤師」制度は従来の専門薬剤師制度に比べると、分かりにくい面がある。関係者は今後、試験実施に向け、その役割の周知徹底にさらに力を尽くすべきだろう。