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マウスの皮膚細胞に転写因子を導入する操作を加えると、ES細胞に類似した能力を持つ万能細胞を作り出せることを、京都大学再生医科学研究所の山中伸弥氏が医学会総会で報告した。山中氏はその細胞を「人工万能性幹細胞」(iPS細胞)と命名。今後は、ヒト細胞から同様の細胞が作り出せるかどうかが焦点になるとし、もし可能になれば、肝細胞や膵細胞を分化誘導させることによって、新薬開発時の薬効や毒性評価に活用できると語った。また、安全性の課題を解決できれば、細胞治療にも応用できると期待を示した。
山中氏らはこれまで、[1]移植後の拒絶反応[2]ヒト胚を利用することに対する拒否反応””というES細胞利用の問題点を克服するため、患者の体細胞からES細胞に類似した万能細胞を作り出す研究を進めてきた。
ES細胞と体細胞では遺伝子は同じだが、発現する蛋白質が異なることに着目。蛋白質の発現を上流で制御する転写因子の働きを調べ、ES細胞で働いている各種の転写因子を同定した。そのうち、▽Oct3/4▽Sox2▽c-Myc▽Klf4””という4種を、マウス皮膚細胞にレトロウイルスで導入し、強制的に機能させて、ES細胞に類似したiPS細胞を作り出すことに成功した。
調べてみるとiPS細胞は、形態、増殖能、遺伝子発現、分化能などの面でES細胞とほぼ同じ機能を持っていた。これらの結果から山中氏は、「iPS細胞は、少なくともマウスでは、ES細胞にほぼ匹敵する万能性を示すことが分かった」と報告。ES細胞の課題を克服できる上、「わが国発の技術であり、海外に高い特許料を支払う必要がないという点でも優れている」と語った。
ただ、「この技術はまだこれからの技術」とし、「マウスで成功するだけでは役に立たない。ヒト細胞で同じことができるかどうかが最大の問題」と強調。ヒト体細胞からiPS細胞を作成するには、「4種の転写因子だけでは難しく、プラスアルファの因子が必要であることが分かってきている」と研究の現状を紹介した。