抗インフルエンザウイルス薬「タミフル」と、服用者の飛び降りなど異常行動との関係などを調べていた一部研究者に、同剤を販売する中外製薬から奨学寄付金が支払われていたり、調査研究費に同社の資金が充てられたりした問題は、臨床研究に対し、広範な問題を提起していると考えなければならない。
今、産学官挙げて、臨床研究を活性化させる方向にあり、その中ではなおさらのことだ。日本で臨床研究を行うことは日本人に合った医療を提供するのに不可欠。今こそ問題の所在を認識し、対策を打つ時だ。
政府は、企業から経済的利益を受けている研究者が公的な調査研究にどう関わるべきかルールを作る方針を示した。しかし、それは臨床研究全般を視野に置いて考えるべきだろう。研究成果は、医療に結びつき、社会に大きく影響を与えることもあるからだ。
タミフルをめぐって提起された問題は「利益相反」と呼ばれる。研究者は、真実に迫る利益と、経済的支援をした企業の利益に挟まれたと、外からは見られる。「研究に影響はなかった」と研究者が言うのは当然にしても、問題は、何らかの形で企業に有利になったのではないかと、信頼性が疑われる状況ができてしまった点にある。
私たちも企業から発表される数々の臨床研究結果を目にするが、研究者との経済的関係まで分からず、疑心がないわけではない。
海外には薬の安全性を検証する委員会の委員をめぐり同じような事例がある。英国では、抗うつ剤SSRIの安全性を検証する際、ある委員がSSRI/SNRIを扱う企業と利害関係にあることを第三者に曝露され、当局は委員会を解散し、設置し直したという。
この問題の第一人者で消費者運動家チャールズ・メダワー氏らが著書で紹介しているものだが、問題は、企業との緊密な関係ではなく、公表しなかったことだと指摘している。EMEA(欧州医薬品庁)は委員選びで、研究者の利益相反のリスクの程度を分類し、リスクが高い場合は他の委員を探すというルールを持つ。
米国ではCOX2阻害型消炎鎮痛薬などの安全性の検証で同様の問題が起こった。FDAは指針を検討、3月に案を公表した。企業との利害関係が強い委員は委員会への参加を制限することもある。これらをめぐる議論では、利害関係のある委員の排除を求める意見もあった。
日本では問題となった奨学寄付金は広く行われ、臨床研究の土台の一部といわれる。その中で委員を排除することは可能か、議論から委員の専門性を排除することが妥当かは考えなければならない。もちろん、臨床研究の資金のあり方も議論されなければならない。
まずは利害関係を公にするという方向が妥当と考える。その際、利害関係を自己申告することは研究者の倫理となることを意味する。官民交流の状況が日本とは異なるとはいえ、欧米のルールも参考になろう。
さらに利益相反は、研究の実施過程だけに起こる問題ではないことに留意すべきだ。臨床研究計画を審査するIRB委員にも起き得るし、研究結果の論文作成・編集・出版という過程でも起きる可能性もある。それは既に欧米では指摘され、警鐘が鳴らされてきている。
この際、臨床研究の信頼性を揺るぎないものにするために問題点を洗い出そう。ルールは、その上で検討されるべきだ。