「エビデンスが重要だ」という主張を近年よく耳にする。治療法や薬剤の選択などにエビデンスをいかに活用するか、という医療現場での話ではない。診療報酬改定に向けて、薬剤師の業務の有用性を表すエビデンスを自ら構築し、アピールしていくことが必要という趣旨の主張だ。
特に日本病院薬剤師会の幹部は、このエビデンス作りを強く意識している。
昨春の診療報酬改定で、薬剤師が病棟に常駐し処方提案などを行う業務を週に20時間以上行った場合に週1回、100点を入院基本料に上乗せできる病棟薬剤業務実施加算が新設された。「薬剤師の病棟常駐を評価してほしい」という要望は、2010年の診療報酬改定では最終局面で通らなかったが、昨春の改定でようやく実を結んだ。チーム医療の推進という追い風に加え、病棟常駐の効果を示したいくつかのエビデンスが役立ったからだ。
来春の診療報酬改定に向けて今後、病棟薬剤業務の効果が調査・検証される。極論だが、十分な効果が示されなければ、同加算が廃止される可能性もある。厚生労働省による調査が近く行われる見通しだ。それとは別に日病薬も独自の調査を行う。このほか各病院にはそれぞれ、エビデンスを構築し、発表するよう日病薬は呼びかけている。
エビデンスの切り口は、▽薬剤師の関与によって医師や看護師が持参薬関連業務に費やす時間が減少した▽副作用の発見や重篤化の回避など薬学的介入件数が増加した――などいくつもある。医療従事者の負担軽減、薬物療法の有効性や安全性の向上、病院の収益向上に病棟薬剤業務がどれだけ貢献したのかを客観的な数値で示して、同加算の維持や増点、対象の拡大を果たしたい考えだ。
このように、エビデンスを構築し、業務の有用性を目に見える具体的な数値でアピールすることは、病院薬剤師だけでなく、薬局薬剤師にこそ求められるものだ。
医薬分業の意義や効果を問う声が、日本医師会や病院団体から強まっている。医薬分業は行政主導で推進されてきた。診療報酬の誘導によって医療機関は、経済的理由から院外処方箋の発行に踏み切った。当初はこれで良かったのかもしれないが、社会システムとして定着させるには、国民の理解や支持が不可欠だ。医療の質向上、医療費抑制、薬物療法の有効性や安全性の向上に、医薬分業が役立っていることを、目に見える形で示す必要がある。
一般用医薬品のネット販売をめぐる議論でも同じことがいえる。薬剤師が対面で販売することの意義やメリットを、客観的な数値で十分に示すことができていれば、ネット販売がほぼ全面的に解禁されるという事態は避けられたかもしれない。
薬局薬剤師の有用性について、誰が見ても納得できるエビデンスを、自ら構築していくことが必要だ。