近年、CDTMというキーワードが日本の薬剤師に広く知られるようになってきた。実際、薬剤師関連の学術大会に足を運ぶと「自施設でCDTMを実践した」との薬剤師の発表を、時々目にする。薬剤師の職能拡大につながる歓迎すべき取り組みだが、各施設の薬剤師がCDTMという概念を独自に解釈していることが気がかりだ。
先に金沢市で開かれた医療薬学フォーラムでも、東京薬科大学教授・情報教育研究センター長の土橋朗氏が、日本でCDTMと称される業務は、米国のCDTMとは異なることを認識する必要があると強調した。
大きな違いは契約と処方権だ。土橋氏によれば米国のCDTMとは、医師と薬剤師の契約に基づき薬剤師に補助的な処方権が委譲され、プロトコールに沿って投与量、投与方法、投与期間などを薬剤師が調整する仕組みを指す。
一方、日本の薬剤師には処方権はない。医師と薬剤師が契約を結ぶことも一般的ではない。米国で確立されたCDTMを、制度や環境が異なる日本にそのまま持ち込むことはできないのが現状だ。
この理解が不十分なまま、日本の薬剤師がCDTMという単語を安易に活用し、業務拡大を推進すれば、各方面から反発を招きかねない。薬剤師が処方権の獲得を狙っていると邪推され、それを快く思わない人たちからの圧力が強まる恐れがある。
米国のCDTMを参考に、薬剤師が処方設計に深く関わる取り組みを実践している薬剤師はまだ少ない。こうした動きが各地に広がる前の段階で、外圧によってつぶされてしまうのは避けるべきだ。
日本でCDTMが注目を集めるのは、厚生労働省医政局長が2010年に示した通知「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」がきっかけだ。
この通知では、薬剤師を積極的に活用することが可能な業務の一つとして「薬剤の種類、投与量、投与方法、投与期間等の変更や検査のオーダについて、医師・薬剤師等により事前に作成・合意されたプロトコールに基づき、専門的知見の活用を通じて、医師等と協働して実施すること」が提示されている。
この通知の実践をめぐって、一般薬のネット販売を規制した厚生労働省令を無効とした最高裁判決を例に、適法性の根拠は脆弱と指摘する声がある。一方、通知で示された業務は既に中小病院などで実績があり、医師との協働を意識し業務展開を推進するよう求める声もある。
芽を着実に育てるためにも今後は、米国のCDTMを参考にどのような業務を実践するのか、日本の薬剤師の間で共通認識を醸成する必要があるのではないか。また、米国との違いを明確にするため、用語の統一も求められる。土橋氏は一例として「CDTM/J」を提示したが「日本型CDTM」「共同薬物治療管理」なども候補になるだろう。