薬剤師国家試験の合格基準が来春から緩和される。医道審議会薬剤師分科会薬剤師国家試験制度改善検討部会の中間とりまとめを踏まえ、厚生労働省が9月30日付で告示した。
背景にあるのは、薬学教育6年制開始後の薬剤師国家試験合格率の大幅な変動と低下だ。2012年の合格率は88.31%だったが、13年は79.10%に低下。14年は60.84%にまで下がった。15年は数ポイント回復し63.17%になったが、これは不適切問題3問を含め14問を全員正解にする補正が行われたため。これがなければ合格率は大幅に下がっていた。
合格率の低下によって、薬局や病院など臨床現場の薬剤師不足は解消されないまま推移してきた。ニーズはあるのに人手が足りない状態が続けば、薬剤師が社会で活躍できる機会を逃しかねない。また、合格率が低かったり大きく変動したりすると、薬局や病院の人員採用計画にも狂いが生じてしまう。
国家試験の合格率を志願者へのアピール材料にしたい薬系大学も、合格率が低くなるほど、合格が見込めない学生の進級や卒業を抑えて留年させるようになるだろう。既にその傾向は強まっている。薬学部に進学しても、6年間で卒業できる確率が低かったり、国家試験に落ちる可能性が高かったりするようでは、薬学部の人気低下を招きかねない。その結果、志願者の学力レベルが低下し、それが国家試験の合格率にも反映されるという悪循環に陥る可能性も否定できない。
従来の合格基準は合計で65%以上の得点率を絶対基準にしていた。来春からは平均点と標準偏差を用いた相対基準で合否が判定される。問題の難易度が高かったり、受験者の学修レベルが低かったりして平均点が下がった場合、得点率が65%以下でも合格の可能性がある。
また、345問中90問を占める必須問題について、全問題の70%以上の得点率を求めることは変わらないが、合格に必要な各科目の得点率は50%から30%に緩和される。255問を占める一般問題も、各科目35%以上の得点率を求めていたが、廃止される。その結果、一部科目の得点率が低いために不合格になるケースが減少する。
今回の緩和によって、合格率の大幅な変動は避けられる見通しだ。毎年、ある定まった数の薬剤師が誕生することになるだろう。病院や薬局は採用計画を立てやすくなり、薬剤師不足の解消も早まる。薬系大学や学生は国家試験対策だけに追われずに済むなど、教育環境にも落ち着きがもたらされるのではないか。
この措置によって薬剤師の質が低下してはいけないが、スタート時の数歩の違いよりも、社会に出てからの伸びしろの方がはるかに大きい。小さく産んだとしても、大きく育てればいい。その意味では卒後の育成の充実を、今まで以上に推進する必要がある。