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生かされない薬害の教訓

2007年10月29日 (月)

 非常に残念であり、虚しささえ覚える。厚生労働省が2002年8月、当時の三菱ウェルファーマ(現・田辺三菱製薬)から提出を受けた、血液製剤により肝炎を発症したと疑われる患者一覧表の418人に対し、個々の患者に検査を受けるよう製薬会社を通じて働きかけることなどをせず、放置した問題だ。

 出産時の大量出血に対する止血という緊急時に、患者はどんな薬剤が使われたかということまで知らないことが多い。そして、肝炎は慢性化すると自覚症状に乏しい。しかし、進行する恐れのある病気だ。検査をしている人もいるが、急性肝炎の意味するところまで告知されていないケースもある。副作用報告のあった20年以上前と02年当時とでは、肝炎の医学知見も大きく変わった。推定1万という感染者の多くは、無自覚であるとも考えられる。

 国が承認した薬剤を投与され、感染したとされており、厚労省、製薬会社は現場の医師任せにせず、患者を特定し、検査を呼びかけ、早く治療につなげる必要性はあった。

 その中で厚労省は何をやったか。02年から2年後、製剤を納入した7000の医療機関を公表し、検査を呼びかけるという対応を取った。それは「一覧表には個人を特定できる情報は記載されていない」からだとしていた。

 しかし、一部患者を特定できる可能性のある資料が19日夜、突然、省内の「地下倉庫」から発見された。前提が崩れた。引き継がれず、当時の担当者が資料の存在を突然思い出したのだという。資料には24人が受診していた医療機関も特定されていた。

 その前の15日に厚労省は、02年には企業側が一部の姓名を把握していることを「国は知っていたものと考えられる」との見解を示していた。実際、田辺三菱は22日、197人の実名、うち40人は住所まで分かる情報を持っていると明らかにした。

 「知っていたものと考えられる」なら、なぜ製薬企業を通じて検査を呼びかけなかったのか。そして資料はなぜ引き継がれなかったのか。福田康夫首相は「人命にかかわる大事な資料をこのように取り扱ったことは、職務怠慢の極み」と指摘した。同意する。

 虚しく思うのは、薬害エイズに似ているからだ。あの時も、感染を告知されない被害者がいた。存在を頑なに否定していた事件の経過を記す資料が突然、大量に発見された。それを手繰ると部局間、組織間の連携の乏しさが事件の一因となっていた。

 その後、関係部局間の連携体制は整備された。02年の肝炎問題の調査報告書でも「連携が有機的になされるよう最大限の努力を傾注する必要がある」と念押ししていた。しかし今回は部局間ではなく、医薬食品局内だ。局内の引き継ぎさえなされなかったのだ。

 そして過去の薬害から得た教訓は何だったのか。過去、重い障害を抱える被害者が、裁判で苦渋の和解を決断したのは、厚労省、製薬業界が反省し、被害者の苦しみを誰にも与えないよう生命を守るという意識を持ち、対策を強化することに期待したからだ。それが踏みにじられた。

 確かに薬事法で安全対策は強化されてきた。しかし今回、薬事法の運用の前提である生命を守るという姿勢、意識が崩れているように思える。

 本紙は、問題は過去の対策や意識は形骸化し、起こると指摘してきた。問題の検証はこれからだが、検証は不断に行われなければならないことだと思う。



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