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「官」は「産・学」の調整役を

2008年01月16日 (水)

 米国では、大学で開発された先端技術の卵をベンチャー企業がインキュベートし、企業が最終責任を持って製品化して研究資金を回収するというシステムがきちんと出来上がっている。

 一方、わが国の産学連携の現状はどうか。京都大学とアステラス製薬の連携が昨年10月にスタートするなど、一部で新しい取り組みが見られるものの、まだまだ十分とは言い難い。

 産学連携を推進するに当たって、どのような課題が横たわっているのか。まず、第一に上げられるのが特許取得と研究成果の公表時期の問題だ。大学で研究成果を公表できなければ優秀な研究者は集まらない。とはいえ、研究成果の公表よりも特許取得を優先するのが企業側の論理だ。

 立場の異なる大学と企業が共同でプロジェクトを進めるには、お互いがどこまで譲り合えるかがポイントになるだろう。

 大学側と企業側のお互いの情報を共有するシステムの構築も大きな課題だ。各大学でどのような研究が進められているかを、企業に知らしめる窓口の開設が急務となる。たとえ大学で画期的な病態の生理メカニズム情報が発見されたとしても、企業に的確に情報が伝わらなければ、研究成果の社会的還元が絵空事で終わってしまうからだ。

 反対に、企業が求める研究ニーズを大学側が把握するための役割も、この窓口に期待されるのは言うまでもない。お互いのコミュニケーションによって、これまで企業側が抱いてきた「産官学連携は経費倒れで成果は出ない」という不信感を払拭する必要がある。

 研究者を育成する制度のあり方も課題の一つだ。欧米では、博士号取得後の任期付きの職、いわゆるポスドクが若手研究者の一般的なキャリアパスとなっている。102カ所の研究室でポスドクを経験して様々な技術を習得した後に、大学で研究室を主宰したり、あるいは企業に移って研究を継続できる路線がしっかりと敷かれている。従って、大学と企業の共同研究においても、ポスドクの能力をうまく活用した欧米の成功例は珍しくない。

 だが日本では、ポスドクの認知度は低く、身分的な保証もしっかりしていない。今後、ポスドクを大学や企業における研究の重要な担い手として活用するための基盤整備が待たれるところだ。

 近年、エレクトロニクス分野では、3カ月間の研究インターンシップ制度が取り入れられ、各企業の研究内容に見合った若手研究者の採用や、産学連携による研究力のアップに寄与してきた。

 薬業界でも、武田薬品が先陣を切って04年7月から2週間の研究インターン制度を開始した。だが、製薬企業としての機密保持上、実際行っている研究をそのまま学生に紹介できないという問題点が浮上している。欧米では、研究者が医薬品メーカーを渡り歩くことは決して珍しくない。わが国でも機密保持の問題を中心とする取り決めを早急に確立しなければならない。

 他方、官の役割も見逃すことはできない。官は、あくまでも産と学の間に入ってコーディネートするのが最も大きな使命となるだろう。

 最近、「産学官連携」と言う言葉をよく耳にする。だが、それぞれの並びは「産官学」であり、官には産と学の間に入って両者をしっかり結びつけることで、日本発の画期的な新薬の創出をアシストしてほしい。



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