日本薬剤師会副会長 石井甲一
本年を振り返るにあたり、4月の熊本地震により被災された皆様に改めましてお見舞いを申し上げます。日本薬剤師会では対策本部を設け、全国の都道府県薬剤師会の協力を得ながら、ボランティア薬剤師の派遣、大分県、和歌山県、広島県薬剤師会からのモバイルファーマシーの出動要請等、東日本大震災の経験を踏まえた対応をとらせていただきました。速やかな復興を願っております。
診療報酬・調剤報酬の改定
医薬分業に対する厳しい指摘の中で、昨年末に0.49%の引き上げが決定され、公平な引き上げ率を堅持することができました。年明けより具体的な改定内容の審議が始まり、調剤報酬において「かかりつけ薬剤師指導料」「かかりつけ薬剤師包括管理料」が新設され、昨年10月に厚生労働省から公表された「患者のための薬局ビジョン」のサブタイトルである「門前から、かかりつけ、そして地域へ」との方針に沿った改定が行われました。
日薬では、4月の改定に伴う影響調査を行っており、その結果を踏まえ、年明けから次期改定に向けての議論が本格化することになります。
診保険薬局の構造規制の見直し
昨年6月の規制改革実施計画の閣議決定に基づき、厚生労働省において検討がなされ、本年3月31日に構造規制の見直し通知が出され、10月から適用されています。日薬としては、今回の見直しにより、医薬分業の本旨が損なわれることないよう薬局の動向を注視していましたが、予想と異なり、医療機関側から敷地内に薬局を誘致するという動きが見られたため、9月27日に見解を公表しました。
医薬分業の本旨は、医療機関と薬局が独立していなければならないこと、薬局を敷地内に誘致するという動きは医療提供施設としてのプライドのほころびと受け止めざるを得ないこと、患者のための薬局ビジョンの方針に逆行するものであることなどを訴えました。薬局は医療提供施設であることを再認識し、適正な医薬分業体制が崩されることがないよう強く願っています。
健康サポート薬局制度がスタート
厚生労働省の検討会において集中的に議論が行われ、昨年9月に報告書がまとめられた「健康サポート薬局制度」が4月よりスタートし、10月から登録申請が始まっています。
日薬は、日本薬剤師研修センターと共同で健康サポート薬局の研修実施機関として日本薬学会の確認を受け、研修の実施要領やe-ラーニングコンテンツの作成を行いました。集合研修については、47都道府県薬剤師会を協力機関として依頼し、実施していただいています。11月15日現在、e-ラーニングの受講者は約6000人、集合研修の受講者は約9000人となっています。
また、健康サポート薬局として登録された薬局が国民の皆様に周知されるよう、日薬ではロゴマークを策定し、会員、非会員を問わず広く活用されることを願っています。
薬価の毎年改定
抗腫瘍薬であるオプジーボの薬価をめぐって、中央社会保険医療協議会において50%の特例引き下げが決定しました。
この問題を契機に、経済財政諮問会議においては薬価の毎年改定の議論が巻き起こりました。毎年改定は、医療関係者、薬業関係者に対し甚大な影響を与えると共に、新たな医薬品の開発意欲が抑制され、結果として、優れた医薬品の国民への提供に支障をきたすこと等も考えられることから、製薬団体、卸団体、日本医師会等とともに、日薬は断固反対の立場で活動を繰り広げました。
12月20日に「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」が公表されたことを受けて、日薬としての見解を発表しました。見解は、毎年の全品目を対象とする全面改定は回避できたこと、イノベーションを評価しつつ研究開発投資の促進を図るとしていることなど評価できる内容も含まれていることから、やむを得ないものと受け止めているとの内容でした。今後どのように実施に移されるのか、注視していかなければなりません。
薬剤師のひみつ
薬剤師のことを漫画により分かりやすく知っていただくことを目的に、学研の「まんがでよくわかるシリーズ:仕事のひみつ編」の一つとして「薬剤師のひみつ」の制作に協力しました。書籍は、3月に完成し、全国のすべての小学校(約2万2000校)と公立図書館(約3200館)に寄贈されました。また、書籍の電子媒体が学研ウェブサイトで3年間無料公開されています。ぜひ、ご覧いただければ幸いです。
今後の展望
薬剤師や薬局を取り巻く環境は、明年も本年以上に非常に厳しいものとなることが予想されますが、薬剤師が患者や国民にとって欠くことのできない存在であることを実感していただけるよう、すべての薬剤師が日頃の業務を通じて努力していかなければなりません。厳しい環境に臆することなく、真正面から受け止め、常に薬剤師に期待されている役割を全うする決意をもって、前進していかなければならないと考えます。