医療関係者の間で、「日本人の薬に対する認識は、欧米諸国と異なる」という声をよく耳にする。欧米人は、薬の主作用と副作用、つまりメリットとデメリットをきちんと理解して服用しているのに対し、日本人は「薬は副作用がなく効いて当たり前」という考え方が強い傾向を指摘したものだ。
医薬品である以上、副作用の発生を極力抑えるように設計されるが、稀に体質や遺伝子の違いなどによって、特定の人に強く現れる場合もある。仮に予期し得ない副作用が発現しても、それを薬害にしてはならないし、被害を最小限に食い止めるために、製薬企業や医療従事者が最大限の努力を払うのは当然のことである。
それと同時に、治療効果の向上や副作用の発現防止を目指すためには、薬の本質や正しい使い方について、患者が理解を深めることも大切な要素である。それには、薬に対する正しい知識が身につくように、幼い頃からの段階的な教育システムを取り入れる必要があるだろう。
欧米諸国では、薬の正しい使い方を学校教育の中に組み入れているケースが少なくない。フランスでは1994年から、[1]小学校(9010歳)[2]中学校から高校初級(12015歳)[3]高校上級(17018歳)――の3段階に分け、個人と集団の健康にかかる薬の正しい使い方について教育を実施している。この教育システムを取り入れたことにより、健康に対する責任が芽生え、保健衛生の向上に大きく役立っているという。
具体的な教育内容は、第1段階は「薬とは何か、どのように使われるか、様々な疾患の勉強」、第2段階は「生命科学等のカリキュラム中で薬の正しい使い方」「12015歳の心身の成長期の話題」、第3段階は「社会科学のカリキュラム中での薬の正しい使い方の総括」で構成される。企画の運営は、フランスの文部省視学局と生物学・地学教員協会の協力の下、消費者グループ、医師と薬剤師のグループ、医薬品業界、薬剤師及び国立健康医学研究所の協議体で行われている。
では日本の現状はどうか。高校の学習指導要領には「薬の適正使用」が項目として盛り込まれているものの、小・中学校では薬物乱用防止しか取り入れられておらず、薬教育・健康教育はその範疇にないのが現状だ。このため従来から小学校で行われてきた薬物に関する教育は、薬物乱用を防止する視点から薬の啓発、禁煙に結び付けていく内容のものが大半を占めている。
このような状況の中、2005年の改正薬事法成立に際し、「子供の薬・健康教育の実施」が付帯決議として議決された。それを受けて大阪市健康福祉局健康推進部は、いち早く小学校のお薬教育実施に関する予算を計上。昨年10月より大阪府薬剤師会に対する補助事業として、市内14の小学校を対象に「お薬講座」を順次開催している。
お薬講座は6年生を対象として、各小学校の学校薬剤師が45分間の授業を行うもの。薬の適正使用教育は、これまで市町村が独自に行ってきたが、政令都市レベルでは今回が初めての試みとなった。
大阪府薬では将来的には、お薬講座を大阪市内全ての小学校で実施したい意向を示しているが、大阪を起点として、こうした流れを全国に広める必要がある。全国で一斉にスタートさせるには、小・中学校の学習指導要領の中に、「薬の適正使用」の項目を取り入れる以外に手立てはない。
2年後には、学習指導要領の改正が予定されている。その中に薬の適正使用が盛り込まれるように、薬剤師会や製薬業界など関係団体がしっかりスクラムを組み、国に働きかけていく必要があるだろう。