コミュニケーションを重視

木暮氏
薬学ゼミナール生涯学習センター(認定薬剤師認証研修機関G13)は、薬に関する専門知識のみならず、患者や多職種連携でのコミュニケーションを意識した生涯学習講座を強化している。「わかりやすい症候診断」では、薬剤師が来局患者とのコミュニケーションを通じて、症状を聞き取り、受診勧奨の必要性を判断していく講座を展開している。木暮喜久子センター長は、「患者さんの生活背景を含めた全体像を把握して、患者中心の医療の実践のきっかけとなる講座や、多職種の考え方を理解して多職種と連携ができる講座をさらに充実させたい。薬剤師の職能を生かして、地域の患者さんに信頼されるための環境をサポートしたい」と話している。
同センターでは2010年の設立当初から地域で活躍する薬剤師のサポートを続けている。厚生労働省が薬剤師の方向性として掲げる“対物から対人へ”に添い、「経時変化や背景も踏まえて患者と向き合える」「処方箋・検査値・症状をもとに臨床決断ができる」「多職種と適切なコミュニケーションを取れる」といった要素を兼ね備えた“スキルミックス薬剤師”へのスキルアップを支援している。
医学的・薬学的知識や技術を中心としたスキル(テクニカルスキル)の講座だけでは、スキルミックス薬剤師への到達は難しい。スキルミックス薬剤師は、さらに仕事を進めていく組織人として必要なスキル(ノンテクニカルスキル)との両輪が必要だという。
ノンテクニカルスキルは、コミュニケーション能力、チームワーク、リーダーシップ、業務改善などが該当するスキルだ。筑波大学が医療用に特化させる形で開発したノンテクニカルスキル研修プログラムをベースに、17年度から薬剤師に必要なノンテクニカルスキルを醸成する講座を開始した。
昨年12月には、第1弾として「職場での対人関係マネジメント」というテーマで、人間関係における対立や葛藤を題材とした教育プログラムを実施した。複数の人間がかかわるコミュニティでは、大きいものから小さいものまで対立や葛藤が生まれるが、その対処方法は個人の傾向が出やすいといわれている。講座では、個々の薬剤師が対立や葛藤にどのように対処しているかの癖を把握し、「説得」「妥協」「協働」「回避」「順応」という五つの対処傾向を学び、状況に応じて適切な対処モードを使えるようなトレーニングを行った。
さらに今年度は、筑波大学の前野哲博教授が実施している「わかりやすい症候診断」がより実践に即したプログラムとなった。症候診断は、「情報収集」「解釈」「決断」という3段階のステップを踏む必要性がある。これまでの研修内容では、受講者に対して患者に関する開示情報量は、薬局カウンターで入手でき、決断に必要な情報(患者の訴え)が網羅されていた。
開示されている情報から、その情報を解釈し、「今すぐ受診を薦めるか」「一晩様子を見て、改善しなければ受診してもらうか」「経過観察とするか」という決断とその裏付けとなる症候学を学ぶことに重点を置いた講座だった。受講者からは、これまでの講座においても「自信を持って受診勧奨か、あるいはOTCを販売するかの判断ができるようになった」などの声が上がっていた。
ただ、その一方で患者の状態を的確に解釈するためには、患者から情報を引き出していく「情報収集」のスキルを高める必要がある。「情報収集」のスキルには、「何を」「なぜ」確認するかという症候学をはじめとしたテクニカルスキルと、患者や家族が答えやすい質問の仕方や傾聴などのノンテクニカルスキルがあり、ともに薬剤師には重要なスキルであるといえる。
こうした状況を受け、今年度は、薬剤師がよく遭遇する「胸痛」「腹痛」「下痢」の三つのテーマを設定し、前野教授が薬局に来局した患者役となり、受講者である薬剤師が質問を通じて情報を引き出していく実践的なロールプレイのトレーニング内容に見直している。受講者には、患者に関して限られた情報しか与えられておらず、できるだけ無駄な質問をせず、効率的に情報を収集、解釈をして受診勧奨の必要性を含めたアクションを決断する。
薬剤師が患者に“何を聞くべきか”にフォーカスを当ててトレーニングするのは初の試みだ。受講した薬剤師からは、「患者さんの部分的な情報から何を聞くことが大切か、受診勧奨へのアプローチの仕方が具体的に示され、分かりやすかった」「一つひとつの質問にその答えからどんな情報を得たいのかという理由をしっかり持って、一歩踏み込んだ対応ができる薬剤師を目指したい」と前向きなコメントが聞かれた。
今年度はこのほか、7月22日に「在宅医療のミカタ2018~訪問薬剤師のディシジョンメイキングとは~」、9月2日に「整形外科領域の治療薬」、9月9日に「糖尿病のトータルマネジメント」、10月8日に「コミュニケーション技法(基礎・応用)」、10月14日に「多職種連携の基本になるBPSモデル」、11月18日に「臨床ですぐに使えるフィジカルアセスメント」といった、テクニカルスキルだけでなくノンテクニカルスキルも学べる講座を多く用意した。
特定疾患で専門的なスキルを身につけると言うよりは、患者の病態や生活状況を踏まえ、トータルで考えられる薬剤師の養成が同センターの特色だ。木暮氏は、「国家試験でも臨床判断ができる薬剤師を養成しようとしていることが感じられる。薬剤師が職能を発揮するには、両輪であるテクニカルスキルとノンテクニカルスキルの醸成のバランスが鍵になるのではないか。ノンテクノカルスキル講座を提供することで、薬剤師として地域や患者さんに何ができるかの気づきにつながるようなサポートをしていきたい」と話している。
薬学ゼミナール生涯学習センター
http://www.yakuzemi-shougai.jp/