関連検索: アルツハイマー病治療薬 理化学研究所脳科学総合研究センター
老人斑を構成するアミロイドベーターペプチド(Aβ)を作る「βセクレターゼ」の活性調節機構が、理化学研究所脳科学総合研究センター構造神経病理研究チームの貫名信行氏らによって解明された。解析された活性型構造をもとに薬剤設計すれば、βセクレターゼの働きを制御する新たなアルツハイマー病治療薬の開発につながることが期待される。成果は、米国の学術雑誌「Molecular and Cellular Biology」に掲載された。
アルツハイマー病は、βセクレターゼとγセレクターゼが、アミロイド前駆体タンパク質(APP)を切断し、老人斑を構成するAβをつくることが原因と考えられている。そのため現在、二つの酵素の阻害剤研究が世界的に行われており、既にいくつかのβセクレターゼ阻害剤が開発段階にある。
ただ、βセクレターゼは、生体内の環境に応じて、非活性状態から積極的にAPP切断を行う活性状態へと変化するが、活性化状態のβセクレターゼがどのような形で、どう活性をコントロールしているなどは分かっていなかった。そのため、構造活性相関に基づいた薬剤開発は進んでいなかった。
研究チームは、大型放射光施設「SPring”8」を用いて、活性型βセクレターゼのX線結晶構造解析を行い、立体構造を原子レベルで解明することに成功した。その結果、βセクレターゼが活性化状態になるとAPPを取り込むためのポケットが大きく開き、ポケット内部の形状もAPPを選択的に取り込めるよう変化することが分かった。
βセクレターゼの活性化はpHによって大きく変化するが、本来、活性型になるべき周辺環境でも非活性状態となっているケースも知られている。同グループではその点についても検討した結果、APPの切断反応に必要とされる水分子が著しく減少しているため、切断反応が起こらないことも明らかにした。
これらの複合的な構造変化によって、βセクレターゼがAPPの取り込みや切断反応を厳密にコントロールしていることが分かってきたことから、活性型の立体構造をモデルとして、新たな薬剤の設計や既存の阻害剤の改良など、治療薬実用化へ向けた研究が促進することが期待される。
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