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医薬品の開発段階・市販後に発生した安全性上の問題をめぐる最終的な意思決定に、非臨床データがほとんど考慮されていないことが、日本製薬医学医師連合会(JAPhMed)が実施したアンケート調査で明らかになった。調査では、非臨床試験が貢献できることとして、「副作用メカニズムの解明」を求める声が62%に上ったことから、今後、医薬品の価値を最大化するためのサイエンスベースの副作用メカニズム解明に向け、臨床と非臨床の連携がさらに求められそうだ。調査結果は、6月27日に都内で開かれた第35回日本トキシコロジー学会で、万有製薬の原満良氏から発表された。
調査は、市販前から市販後までリンクした「セーフティーサイエンス」の可能性を探るため、製薬企業で臨床開発や安全対策を担当しているJAPhMed所属の医師207人を対象に行われた。回答者の68%が国内外での安全管理に携わっていた。
開発品で経験した安全性上の問題を尋ねたところ、最も多かったのが「肝毒性」、次いで「心毒性」「呼吸器毒性」で、市販後も同様の結果だった。これら開発段階での安全性上の問題について、非臨床試験にフィードバックしたのは33%、最終的な意思決定に非臨床試験成績が影響したとの回答も27%にとどまった。
さらに市販後になると、非臨床試験にフィードバックしたのはわずか8%、最終的な意思決定に非臨床試験成績が影響したとの回答も8%に過ぎず、開発段階・市販後共に、非臨床データがほとんど役立っていない実態が明らかになった。実際に、非臨床から臨床への情報提供について、非臨床試験での毒性所見が臨床試験の関係者に十分理解されていないとの回答が57%に上った。
その上で、開発段階で非臨床試験が役立つためには、「動物での所見からレスキュー法まで確立」「非臨床で安全が担保される臨床用量を明示」できるよう改善を求める回答が多かった。また、市販後に非臨床試験が貢献できることとして、副作用メカニズムの解明が処方機会の増加につながるかを尋ねたところ、62%が「つながる」と回答。サイエンスベースの副作用メカニズムの解明についても72%が「必要」とした。しかしその一方で、61%が「それは困難」と考えていることも分かった。
理由としては、70%がヒトにおける副作用の個体差などから「技術的に困難」と回答。サイエンスベースの副作用メカニズム解明に向けて今後必要になるアプローチとして、海外でのSAE(重篤有害事象)コンソーシアム等への参加を挙げた回答が半数以上に上った。
副作用メカニズムの解明へのアプローチを構築する上での問題点については、70%が「企業の壁を越えて知見を集積できる公的システム」を挙げており、サイエンスベースの副作用メカニズム解明に向け、臨床と非臨床が企業の枠を超えて連携していく必要性が示唆される結果となった。
これらの調査結果を踏まえて、原氏は「全ての臨床試験の安全性を監視する立場として、非臨床データをいかに理解するかはますます大切になっている」とし、「副作用メカニズムの解明は世界的に取り組むべき課題で、製薬医学に携わる企業内医師とさらに連携を深め、科学的にリスクを提示し続ける姿勢を示してもらいたい」と要望した。
その上で、「副作用メカニズムの解明自体に価値はない」と指摘。「医薬品のリスクマネジメントは、医薬品の価値を最大化することで、そこに副作用メカニズムを解明する意義がある。サイエンスベースの確立に向け、最終目的が何かを見失わないことが大切」と述べた。
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